「未来予想図」~経営者コラム~
中国のGDPが日本を抜いたことが意味すること
中国が実質GDPで日本を抜き、世界2位の経済大国になることが確実となったそうです。10年前に世界7位だった国が、10年たたないうちに2位になるというその成長スピードはやはりすごいスピードです。
個人的に面白いと思ったのは、このニュースに対する中国の論調です。直接中国語を読んだわけではありませんが、いろいろな報道を見ると、「勝って兜の緒を締めよ」的な冷静な論調が多いようです。一人当たりGDPで見れば、中国は09年度で99位。(日本は16位) まだまだ国民一人一人の豊かさでは後進国ということ、浮かれてはならん、ということのようです。
なにが面白いと思ったかというと、これとまったく同じ論調の記事が約40年前、日本のGDPがドイツを抜いて2位になった時の経済専門誌に記載されていたのを読んだことがあったからです。
たしか、タイトルは「2位と20位」でした。そのときの論調は、GDPでは2位になったが、一人当たりのGDPは20位、他の欧米諸国と比べたら、まだまだ貧しい。さらには公害も深刻化して、自然が破壊されている。こんな豊かさはいびだ!といった論調だったと思います。 では、現在の中国が40年前の日本と同程度の経済発展段階にあると過程したい場合、今後の中国について、1970年代以降の日本の歩みから得られる示唆はなにがあるのだろうか、と考えてみます。 1970年以降の日本経済の歴史を考えるとき、やはり重要な転機となったものは、「プラザ合意」とその後の円高ではないかと思います。 では、これを中国経済に置き換えて考えた場合、近いうちに中国も、「北京合意」とか「ハワイ合意」を経て変動相場制への移行し、「元高不況」を迎えて成長が低迷していくのでしょうか。
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「固定相場制により、実態と離れた円安水準にある日本は、世界に失業を輸出している」というのがプラザ会談における世界の問題意識であり、変動相場に移行してこれを是正すると同時に、閉鎖的な国内市場を開放し、日本は「内需拡大」により、世界経済を牽引する「機関車のひとつ」になるべきである(機関車論)。
これが、当時世界から突き付けられた日本経済へのメッセージです。この結果、日本は自国通貨の上昇に耐性がないビジネスモデル「輸出立国至上主義モデル」がプラザ合意から受ける影響を過度に恐れ、「財政拡大」「金融緩和」「為替介入による外貨準備拡大→過剰流動性の増大」と、大判ぶるまいで景気を刺激し、バブルへとつきすすんだあと、一気に転落しました。
しかし、現代の中国は、世界1位の輸出大国である一方で、すでに世界2位の輸入大国でもあり、輸出に過度に依存したビジネスモデルではありません。(2009年時点) また、現状の中国が、世界に不況を輸出しているかというと、そうともいえなそうです。中国は、その巨大な市場の需要に国内の生産力が追いついておらず、このギャップを輸入でまかなうために、市場の開放は(制約付きだが)40年前の日本より進んでいると思われます。(すでに中国は大豆などの主要農作物まで純輸入国となっている)
また、中国の内需を頼って世界が中国向け輸出を拡大している現状は、まさに「中国が機関車となって経済を牽引としている」という一面があり、中国はすでに「世界の機関車」の役目を果たしているといえる。これもやはり圧倒的な中国の規模のなせるわざです。
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しかし、中国は、その成長の高さから、少なくとも5年以内には一定水準(現行管理フロートのレベルではなく、少なくとも20%程度の切り上げという意味)の元の切り上げを行わざるを得ないのではないかと思われます。その場合には、そして、次のようなことがおきる可能性があるのではないかとおもいます。
予想①:中国企業の生産能力増強が推し進められ、中国企業の能力向上が本格化する。 しかし、さすがにかつての日本のような輸出立国的な部分は徐々に儲かりにくくなるので、国内生産、国内消費の増強という形で「内需拡大運動」がおきる。この部分では共産党政権による「さらなる外資参入規制強化」が起きるかもしれません。(自国産業育成のため) いいかえれば、今は拡大する経済に国内の生産力が追いつかず、そこを海外企業が埋めている構図ですが、この1部を国内企業によりまかなうという意味で、「内製化」が進む可能性があるのではないか、という予想です。日本のように、内需に対して「人口」というキャップがまだないので、過度な財政出動などしなくても、十分に内需は活発化し、このストーリーは成功する可能性が高いように思われます。
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未来予想②:国内で育成が難しくても、金で買えるものはどんどん外から買う。
一方で、強くなった元のパワーを十分に活用して、「外から買ったほうが早いものはどんどん買う」ということになると思われます。中国企業による日本企業の買収が本当に活発化するのは、元の切り上げ実現後、という予想です。
最後に今の円高についてです。
今日も日本円が84円台です。政府がなにもしないことにいらだつ声は大きいのですが、この状況で単独介入するにも効果が疑問視されるのも事実です。
これは完全に根拠のない単なる仮説ですが、世界的な金融緩和でグローバルに飛び回っているマネーが、本当に向かいたい(向うべき?)通貨はなにを差し置いても元ではないか、と思われます。しかし、現行では、元は管理フロート制で、かつ中国は現状での元の切り上げを容認しないでしょうか、相対的に経済が堅調と見られている日本の円に資金が集まりすぎるのではないか。ここには明らかにマーケットのゆがみがあるように思えます。1ドル=84円というのは、日本経済にとってはもはや「致死水準」ではないかと感じます。
日本政府は、長期的には、アメリカと一緒になって、元の平和的な切り上げに向けて中国を説得していく必要があるのではないでしょうか。