「未来予想図」~経営者コラム~
So what 2016 ~トヨタはVWの4分の1
とりあえず数字を並べてなんとなく語る、~So what 2016 ~コラム
今回の数字は
「4分の1」です。
これは、中国市場における、フォルクスワーゲンの生産台数に対するトヨタ自動車の相対的シェアです。
中国の南シナ海における海洋進出について、オランダハーグの仲裁裁判所は、九段線をはじめとする中国の主張をほぼ全面的に退けました。結果的にはフィリピンの訴えを大筋で認めるという判決になったようです。これに対する今後の中国の対応は、世界経済にも大きく影響を与える可能性のある大きなイベントのひとつと言えます。
いずれにしても、自国の主張を一方的に押し付ける中国の強引な外交戦略は、ある程度修正を余儀なくされるでしょう。中国に安全保障を脅かされ続けてきた日本をはじめとする周辺国は多少は安堵したといったところでしょうか。
このニュースに限らず、尖閣の衝突から始まり、昨年の中国ショックなどもあり、日本では、ビジネスシーンでも中国市場について前向きな議論はほとんど聞かれない印象です。昨年はM&Aマーケットでも、日系企業の中国からの撤退(現地企業の売却)といった案件情報が多く見られた印象もあります。
「政治リスクのある中国はもはや魅力的なビジネス市場ではない」
「人口ボーナスが終われば中国経済は成熟期に入り成長は停滞する」
「賃金が上昇した中国は、生産拠点としてはもはや魅力はない」
「隠れ不良債権問題が表面化し、中国経済は崩壊する」
「爆買い需要も花と散った。もう中国需要も終わり」
日本のビジネスシーンにおける現在の中国の印象をざっくり総括すると大体こんな感じでしょうか。しかし、「それ、ほんと!?」というのがこのコラムの主題です。
このグラフは、世界の自動車生産台数予測(~2025)年をまとめたものです。2020年には、実に世界の自動車の4割が中国で生産されることが予測されています。販売の数値はここにはありませんが、販売でも中国がダントツの1位です。
出所:マークラインズデータベース等からイグナイトパートナーズ作成
こうした、生産台数、販売台数の予測には、いわゆる需要予測という手法が用いられます。これは、GDP成長予測や人口動態、所得水準など、自動車の購買、消費に重要な影響を持つ因子から将来の需要を予測するモデルを構築する手法です。自動車のように、過去の先進国における普及率の成長推移や、各国の今後の成長に関する因子(GDP等)が詳細に入手できる領域では、こうした需要予測は比較的精度が高いことが統計的にも知られています。
では、中国における自動車生産をメーカー別にみるとどうか。それをまとめたのが次のグラフとなります。
1位はGM、2位はフォルクスワーゲン。(これは2013年の生産実績。販売実績では、フォルクスワーゲンが現在トップに立っています)フォルクスワーゲンが中国で販売を伸ばしているのは有名な話です。これは、おととしに、トヨタを抜いて販売台数世界1位になったことがあるからでしょう。
しかし、米国のGMも全く引けを取らない位、中国でのプレゼンスを確立しています。一方、日系では日産が最も健闘していますが、欧米の2社には遠く及ばない状況。2025年には世界の自動車の4割を生産する中国で、日系メーカーはこの状況です。
家電業界がもはや世界に誇れる日本の産業ではなくなった今、自動車及び自動車部品産業は、産業立国日本の最後に残された牙城です。世界最大の市場で、日系メーカーが圧倒的に欧米系に負けていて、いいはずはありません。
1978年に、鄧小平により改革開放路線に転じた中国は、日中平和友好条約締結のために来日したおり、日本の主要企業に対し、熱心に中国進出をアピールしました。この中に当然トヨタ自動車もあり、鄧小平自ら熱心にトヨタ幹部に進出を依頼したといいます。
ところが、中国の要請に応じて中国進出を決めた新日鉄や松下に対し、トヨタはこれを見送ります。(一節にはその時「中国の人がトヨタのクルマを買えるようになるまで、一体何年かかるでしょうか」という態度をとったことが、鄧小平の大いなる怒りを買ったという逸話がありますが、真偽のほどは定かではありません。)
このとき、中国の招きに応じていち早く中国進出を決めたのが、ドイツのフォルクスワーゲンとアメリカのGMです。この時の判断が、現在まで挽回に至らない中国でのトヨタ劣性の元凶と言われています。
また、このとき、中国に進出を決めた唯一の日本の自動車メーカーが、日本市場での成長が伸び悩んでいたダイハツです。だから中国ではダイハツは今でもフォルクスワーゲンやGMほどではありませんが、一定の知名度のあるブランドとなっています。トヨタのダイハツ買収は、軽自動車の強化のため、と捉えられがちですが、中国進出のためのチャネル買収がその本当の意図です。
トヨタは「油断しない会社」「おごらない会社」として有名ですが、当時国内・北米市場が順調すぎるほど順調だった、トヨタの唯一にして最大の油断が、40年前の中国市場の見誤りかも知れません。
もちろん、安全保障の問題をはじめ、中国と日本の間には国防上の大きな問題がありますが、一方でそういった要素とは別に、2030年に向けた中国の可能性について、冷静な分析と判断が必要と感じます。(なにかあればすぐに撤退、とか、ちょっといいとすぐに進出とか、ではなく)。そのときになって、あのときにああしておけば、という悔しい思いをしない為に。