「未来予想図」~経営者コラム~
中国危機は日本にとって本当に危機か?
中国経済の減速が世界経済に与える影響が日々のニュースをにぎわしています。中国経済の危機はリーマンショックの再来になる、さらには世界大恐慌の引き金になりなり得るなど、経済版ホラーストーリ―が日々ニュースになります。
しかしながら、本コラムでは中国経済の減速は当然日本経済にとってもマイナスの影響をもたらすものの、リーマンショック時のような経済危機レベルまでの悪影響になる可能性は低い、と予想します。根拠はいくつかありますが、そのうちの一つは日本経済の中国経済依存度は全体として危機的な影響を与えるほど強くない、という点です。
下記グラフは、日本のGDPにおける対中国輸出額の比率の推移です。これを見ると、日本のGDPに占める対中貿易輸出額(いずれも名目)は直近で3%程度です。現在GDPの成長率が1%前後とすると、GDPの3%という比率は決して小さいとは言えません。この対中輸出の内訳は、半導体、有機化合物、科学光学、自動車部品等ですから、これらの産業はかなりの影響を受ける可能性があります。
一方で、対中輸出と対中輸入の差額=対中貿易収支の推移を見たグラフは以下の通りです。対中貿易収支がに関しては、ほぼ一貫して輸入超過であり、対中貿易収支は赤字が続いています。近年のアベノミクス以降は、円安により輸入価格が相対的に上昇したため、さらに赤字が拡大しています。実質貿易収支は残念ながら不明ですが、対中貿易をネット(純輸出ベース)で見た場合、GDPに対して少なくとも大幅にプラスに影響しているとは言えなそうです。
財務省統計よりIGNiTE作成
では、中国経済の日本に対する影響は全くもって心配するようなことではないのか。リーマンショックのような事態は本当に起きないのか。これに対する回答の一部は、以下のグラフにあります。これは、リーマンショック前の2006年時点を100として、各国の対円為替レートがどの程度変化したかを表しています。リーマンショック後の米欧の大規模緩和により、形式的にドルペッグされている元も大幅に円に対して下落します。
リーマンショック時、日本企業のバランスシートは総じて健全でした。危機に落ちいったリーマンブラザーズの事業を野村が買収し、モルガンスタンレーの事業を三菱が買収したのもこのタイミングです。バランスシートが世界のどこの国よりも健全だった日本企業が、その後リーマンショックの全体の回復が最も遅かったのは、白川日銀の失策により日本が通貨戦争に負けたからであり、日本企業が弱かったからではないのです。
では今はどうか。日本企業のバランスシートは以前健全で、為替レートは当時よりはるかに円安になりました。このような要件のもとで、経済的な依存度が必ずしも高すぎるとは言えない中国経済の失速が、日本経済に直接深刻に影響することはないと予想します。
個人的には、日本経済におけるバッドシナリオは中国の経済悪化ではなく別のところにあると考えます。それは、消費税再増税です。
前回消費税増税延期を安倍内閣が判断し、解散総選挙に売ってでたとき、日銀は歩調を合わせて緩和しました。消費税増税を後押しするためです。黒田総裁は歴史に残る総裁だと思いますが、残念ながらやっぱり財務省アルムナイの一員だということが判りました。そう考えると、次の消費税増税までは追加緩和はない可能性があります。バズーカ―は打ちすぎるとマーケットへのインパクトが薄れて効果がなくなるからです。
中国経済の影響を懸念するといっても、統計情報の信頼性が低く実態がわかりません。米国の利上げも、これまでのセオリーなら円安要因ですが、経済の不確実性が増す中では回避通貨として円が買われる可能性が常にあります。このような不確実な環境下では、消費税増税とセットでの金融緩和などという内向きの政策判断はせず、一ドル120年前後の現在の水準を防衛ラインとして日銀は毅然とした金融政策を遂行する必要があります。しかし、日銀が消費税増税ありきで、金融緩和をそれとセットにすることに拘泥するようであれば、日本経済はもう一度リセッションに陥る可能性が高まると予想します。しがない零細企業経営者としては、そうならないことを切に願います。