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Homeコラム Column企業戦略とM&Aに関するコラムなぜM&AアドバイザーはEBITDA倍率で語るのか ~Cash Free Debt Free Valueの深い意味~

なぜM&AアドバイザーはEBITDA倍率で語るのか ~Cash Free Debt Free Valueの深い意味~

 

小規模の国内案件から大規模なクロスボーダー案件まで、M&Aのニュースを目にしない日はありません。このようなM&Aニュースでは、「国内企業が海外の同業他社を300億円で買収」など、買収金額も合わせて公表されることが通常です。しかし、記事の中には、この買収金額がなに意味しているか、判然としないケースも多くあります。

M&Aで、「買収金額」(ここでは単純な株式譲渡のみを想定しています)」という場合、およそ以下の3つの可能性があります。

① 100%取得ベースでの株式価値(株式時価総額)

② 実際に取得する株式数の取得額(例:発行済株式の51%の取得額)

③ 企業価値(enterprise value)

 

買収とは、対象会社の議決権を取得する行為になるため、直感的に理解しやすいのは①又は②でしょう。実際、最終的に売り主に支払われる譲渡対価も、原則としてこの①又は②の金額になります。では、M&Aの交渉を進めるときも、最初から①や②をベースとして初期的な買収提案や交渉をすればよいのでしょうか?それはそもそも可能でしょうか?

 

 

そうではないというのが今回のコラムのテーマになります。実は買収交渉の過程で安易に株式価値に言及するのは買い手にとって非常にリスクの高い行為になることもあります。このことを理解するために、改めて「会社との価値とはなにか」を確認してみましょう。「会社の価値」とは、「会社が生み出すキャッシュフローの現在価値の総和」となります。事業価値と言われます。

 

 

この「事業価値」と「株式価値(株式譲渡代金)」は全く別物、というところが非常に重要です。しかし、コンサルティング系ファームからM&Aファームに移籍したての若手ビジネスマンなどで、この違いの意味を見落としているのではないかと懸念されるケースが今でも散見されます。※厳密には、この事業価値に非事業性資産(代々受け継がれてきた本業と関係のない不動産など)を加味したものが③の企業価値となりますが、ここでは議論を簡素化するために非事業性資産はないもの(事業価値=企業価値)と想定します。

 

 

この「企業価値と株式価値の違い」をきちんと理解するには、「会社は誰のものか」ということの再確認から入る必要があります。ファイナンス理論で「会社は誰のものか」と考えるとき、それはそのまま「会社が生み出すキャッシュフローの取り分を受け取る権利があるのは誰か」ということを意味します。これは、以下の3者になります。


A:国家(徴税権)

B:債権者(貸付債権)

C:株主(株主権)

 

このことをさらに直感的に理解するために、「企業価値」の全体を1個のホールケーキに例えてみます。言い換えれば、会社(ケーキ)は誰のものか、という問題は、「ホールケーキにどうやってナイフを入れてこの3者に配るか」ということを意味します。実際には、従業員や取引先など、営業活動上のステークホルダーも重要な役割を担うことはいうまでもありません。しかし、ファイナンスの理論上はこの3者が会社の価値の分配を受けることになります。

 

このうち、「A:国家」の取り分は、「税法」に基づき粛々と決められます。(税務当局と毎年戦う「豪の者」ももちろんいますが、通常はお上を相手にしたら黙って上納するしかありません。)また、「B:債権者」の取り分は、基本的に「元本の返済」となります。AとBが取り分を取って、残ったケーキがC:株主の取り分、すなわち株主価値になります。

 

 

こうして考えると、企業価値(ホールケーキ全体の大きさ)と株主価値(自分が食べられるケーキの大きさ)を混同したまま、交渉したり協議することはそもそもできないことが直感的に理解できます。特に、買収協議の初期段階では、まだ対象会社の有利子負債額や現預金残高、繰延税金資産/負債、繰越欠損金の有無などがわからないことがほとんどです。そのような状態では、「株主に残されるケーキの大きさについては判断しようがない。」というのが実務での一般的な状況で、まずは、ケーキの大きさ(企業価値)をしっかり議論することが重要です。

 

この「ケーキの大きさ」を議論するのに有用なひとつの指標が「EV/EBITDA倍率」です。買収協議の初期段階では、そもそもフリーキャッシュフローが厳密に計算できるだけの十分な情報がないことがほとんどです。これに対して、EBITDAは、税引き前利払い前償却前利益になりますので、前述の3者すべてに帰属し得る利益と捉えることができます。そこで、EBITDAを疑似的に簡易なキャッシュフロー指標と見做すことで、ケーキの大きさについて初期的な討議をすることが可能になります。

 

 

つまり、ケーキの大きさが、このEBITDA(多くの場合は今期予想EBITDA)の何倍あるのか、を他の類似上場企業などを参考にしながら議論することが可能になるわけです。M&Aの初期段階でEBITDA倍率がひとつの指標になるのはこうした理由からです。

 

このような「企業価値をベースにした買収価格」のことを、英語ではDebt Free Cash Free Valueといいます。特にクロスボーダー案件では、各国の税法の違いや現預金の定義の違い、有利子負債の性質の違いなどにより、前述の「国家、貸付債権者、株主」の3者に帰属する価値の分け方(ホールケーキへのナイフの入れ方)も異なる場合が多くなります。従って、まず「ケーキの大きさを決める」ため、Debt free Cash free での明確な価値合意を目指す必要性が非常に高くなります。

 

 これをきちんと合意しないと、オーナー株主への多額の配当行為、本業と関係のない多額のLBOローンの扱い、運転資金の恣意的な変動、オーナーによる会社貸付の扱い、などで祖語が生じ、当初想定していなった思わぬ高値での買収を余儀なくされるリスクすらあります。

 

最後に、冒頭で述べた様々なM&Aニュースの話に戻ります。こうしたニュースでは、多くの場合「株式取得価格」といった記載で、買収価格が株式取得総額を示しているケースが多いようです。しかし、中には企業価値を示しているか株式価値を示しているか、判然としない場合もあります。M&Aの価格についてのニュースや公表情報に触れる場合は、それが「ホールケーキの大きさ」(企業価値)を指すのか、「株主に配られるケーキの大きさなのか」確認しながら読み進めると、ディールのより深い理解につながると思われます。