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がんばれ クイックシルバー

クイックシルバー(QS)は、サーフィンをしない人でも恐らく多くの人が知っているグローバルサーフブランドであり、常に近代サーフィンの発展の中心にいたトップカンパニーです。世界中のプロサーファーのスポンサーとなり、ケリースレーターやステファニーギルモアなどのスーパースターを育て、多くの国際大会を主催してきたこの会社が倒産してしまうとは・・・

QSがチャプター11(米国連邦倒産法11章)の適用を受けて、再建に向けイチから出直しとのニュースに、ウィークエンドサーファーの私でさえも、ちょっとした衝撃を受けました。

 

一方で、ニュース速報で報じられた「近年のファストファッションブームに押され、業績が悪化していた。」(Yahooニュース)という記事には直観的に違和感を感じました。ほんとかいな?というざわざわ感です。

 

確かにQSは、傘下に女性向けアパレルのROXYも擁しており、サーフアイテムビジネス(ボード、ウェット等々)のプレーヤーというより、サーフカルチャーを軸にしたグローバルアパレルブランドというポジションです。しかし、クイックシルバーにせよ、ROXYにせよ、好きな人にはしっかり訴求していて、H&Mがありゃいいや、というほどブランド価値が毀損してるイメージは私にはありませんでした。

 

こうした事態に陥ったのは、どこかもっと別のところにも理由があるのではないか。そんな目線でQSの財務3表をちょっとながめてみると、時間をかけるまでもなく、非常にクリアにその理由が分かってきます。

 

 

■売上高の推移

QSは上場企業のため、詳細な財務データの取得が可能です。そこでまず1990年から2014年までの売上高の推移をグラフ化してみると、以下のようになります。確かにリーマンショックが起きた2008年以降で3割ほど売上が減少しています。大幅な減収ですが、3割減収して即倒産するほど体力のない会社とも思えません。(余談ですが、1990年以降2007年までの売上高の成長は著しく、まさにQSが、他のグローバルブランドと共に市場そのものを創造してきた歴史が感じられます)

 

QS


■バランスシートの分析

次に、バランスシートを非常におおざっぱに分析すると、総資産及び有利子負債の推移は次のようになります。これを見ると、ほぼ今回の事態の遠因が明らかになりそうです。

QSは2004年から2005年にかけて、社運を賭けたM&Aを2件実行しています。1件はスノーボードシューズを始め、ウィンターシーズンアイテムを中心に多くの商品を展開するDCshoes.そしてもう1件は、フランス発祥の伝統あるスキー関連ウィンターギア企業のロシニョールです。特にロシニョールの買収は、企業価値ベースで570MMUSD以上(当時のドル円≒90円で換算しても500億円超)の大型買収であり、買収価格も直近実績EBITDAの10倍を超えていた模様です。

 

これらの買収を経て、QSのバランスシートは一気に2倍以上に拡大し、有利子負債も増加します。(この有利子負債が、買収資金の調達によるものか対象会社の負債を引き継いだものかは明らかではありませんが・・・)

 

ところが、QSは2005年に買収したロシニョールを、2008年の8月には豪州に本拠のある投資グループのマッコリ―のフランス現地投資会社に、当時の買収価格の10分の1で売却してしまいます。恐らくリーマンショックによる経営環境の悪化が大きなトリガーになったと思われます。

 

DCshoesは未だにQSのグループブランドとして、ROXYと並ぶ3本柱の位置付けだとすると、やはりこのロシニョールの買収こそが、QSにとって大きな蹉跌になったと想像されます。

 

QS2

 

利益の推移

 

最後に、利益の推移を見てみると、さらに上記の分析が裏付けられます。QSの営業利益推移を確認してみると、なんと直近2013年までほぼ黒字を維持しています。ところが純利益はロシニョールを売却した2008年前後と、直近の2013年~2014年にのれんの償却を実施したタイミングで非常に大きな赤字となっています。どのような取引で発生した暖簾が償却されたのか(DCshoesか、それ以外のディールか)は残念ながらわかりませんが、いずれにしても過去の買収から生じた負の遺産がQSの財務を苦しめていたことは間違いないといえそうです。

QS3

 


 

なぜロシニョールを買収したのか

 

QSがロシニョールを買収した理由は、恐らくサーフとウィンター(特にスノボでしょうか)という、2大アウトドアスポーツをカバーし、ビジネスの季節変動性をカバーしあったり、チャネルや物流によるシナジーを期待してのことと思われます。

このM&Aの目的自体が間違っていたのかどうか、ここではそれを判断する材料は残念ながらありませんが、私は、少なくともターゲットはロシニョールじゃなかったんじゃないか、という感じがします。

 

スキーも少しかじっていたので、スキー界におけるロシニョールのポジションはある程度イメージがわきます。少なくとも私のイメージでは、かなりの「しぶちん」です。スキー歴20年のテクニカルレベルの壮年のスキーヤーが、車山あたりのカリカリのえぐい斜面をもくもくとカービングでぶっとんでいくしぶちんな感じ。なんだかんだで横ノリ系のQSとはだいぶカルチャーが違うような気がします・・・

ターゲットとしてのサイズもだいぶ大きいような気がします。バランスシートが2倍に拡大するような「一世一代の大勝負」というのは、やはり相応のリスクがあるということでしょうか。

 

■なんだかんだでたぶん大丈夫

 

本件に関する初記事を斜め読みする限り、今回のチャプター11適用には次のようなポイントがあるようです。

 

・破産法を適用されるのはアメリカ本国の事業のみで、ヨーロッパ、アジアの事業は適用外

・グローバルに展開する投資グループである、オークツリーからのDIPファイナンスを受け、その後もオークツリー傘下での再建を目指す模様(詳細不明です)

 

冒頭、ファストファッションの台頭は直接の原因ではないはずと書きましたが、もちろん売上が3割も減少するのは危機的であることにかわりはありません。ファストファッションの台頭も大きな脅威と思われます。が、過去のM&Aの負の遺産を背負ったまま、十分な攻め手を打てずなかったからこそ、ファストファッションに対抗した積極策が打てず、今に至ったということも十分想像されます。

 

であるならば、チャプター11の適用を受け、過剰な有利子負債を整理した上で再度事業の強化を目指すことは決して不可能ではないと思われます。なにしろ営業利益はほとんど黒字で、粗利率に至っては昨年でも5割近い水準です。

 

なにより世界のサーフカルチャーとビジネスを他のブランドと共に牽引してきた偉大な会社として、再び魅力的なサーファーを世に送り出してくれることを切に願います。(そういえばケリーが昨年QSチームから抜けて独自ブランドを立上げたのも、今回の件と無関係ではないのかも知れません)

 

ファンドが再建にあたるということは、3年~5年後には投資の出口を迎えるということになります。上場維持なのか、非公開化して再上場を目指すのか、オークツリーの出口戦略は分かりません。しかし、もし将来売却されるのであれば、ガッツと個性のある日本のアパレルメーカーで、世界のサーフシーンに打って出るような素敵な会社があれば、是非名乗り出てほしいものですね。(ユニクロ?違うな~)