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Homeコラム Column企業戦略とM&Aに関するコラムローソンによる成城石井買収の成否は?

ローソンによる成城石井買収の成否は?

■成城石井が好き

ブラジルの国民酒は「カシャーサ」である。日本ならいろいろな日本酒が買えるのと同じで、ブラジルのスーパーに行くと、様々な種類のカシャーサが販売されている。カシャーサをベースにしたカイピリーニャ(カクテル)は、日本でもいろいろなレストランやバーで提供されるようになってきている。

 

カイピリーニャは、家庭でも割と手軽に作れるカクテルである。たまに筆者も家で作るためにカシャーサを買いに行くことがある。そんなとき、比較的多くの銘柄から選べるお店は、筆者の知る限りでは圧倒的に成城石井である。お酒の専門店よりも多くの種類を置いてある店舗もある。もちろん、成城石井は酒類だけではなく、輸入チーズ/ワイン、ドライフルーツ、無添加食品などなど、ちょっと高いけど思わず欲しくなるものがあり、カシャーサを買いに行っただけのつもりが、ついつい、いろいろ買ってしまうこともある。

この成城石井は、ビジネスの視点でもとても興味深い会社だ。1927年に成城駅前で石井さんが始めた小さな果物店が、1976年に社長に就任した石井良明社長の代に法人となる。そして良明社長の元、高級スーパーマーケット業態に転換して成長していったその軌跡は、そのまま日本の高度成長終焉後(アフター高度成長)の中小企業、起業家の成功物語ともいえる。

また、確固たる戦略を貫く、という点でも、成城石井はとてもユニークだ。長く続いたデフレ時代でも、値下げとは一線を画して製販一体、高価格路線というポジションを貫き、利益率の低いスーパー業界で高い利益率を誇っている。とても腹の座った経営である。

さらに興味深いのは、成城石井は、ここ十数年の間にファンドも絡んでかなり頻繁な資本移動(株主の変動)があり、傍目からはかなり混乱に巻き込まれているようにも見える中で、連続して増収増益を達成している点である。そして今回のローソンへの売却。今後も含め、成城石井における株主と会社の関係が、経営にどのような影響を及ぼし得るのかは興味深いテーマだ。

成城石井の株主変遷

■創業家からレックスHDへ

成城石井の株主の変遷をたどってみると、最初の大きな資本移動は2004年に生じている。創業家が保有する株式の66.7 %をレックスHDが買い取り、さらに2006年には、株式交換を通じて100%子会社化している。レックスHDは当時ジャスダックに上場し、焼肉の牛角等を経営しつつ業態の多角化を図っていた飲食業界のベンチャー企業である。一時はコンビニのAM/PMなども傘下に収めていた。

■アドバンテッジパートナーズによるレックスの非公開化

次の転機は同じ2006年に起きる。このレックスHDの経営陣が、2006年11月に、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズ(以下、AP)と共同で同社のMBOを実行し非公開化。(このMBOでは非公開価格の妥当性をめぐって裁判で争われた国内初の事例としても有名だが、これについてはまた機会あれば触れてみたい)

この非公開化に伴って、レックスの100%子会社である成城石井もAPの傘下に入る。注目すべきは、このAP傘下の時代に、成城石井の業績が急回復している点である。グラフは、日経ビジネスオンラインの2009年6月20日号「不況でも利益を2倍にするやり方」に掲載された成城石井の業績推移である。

成城業績

graph1

(元記事:http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20090618/198005/)

 

これを見ると、2006年の非公開化から2008年にかけて業績が急回復していることがわかる。前出の記事では、APが白羽の矢を立てた再生請負人である、大久保恒夫氏が社長に就任し、様々な改革を実行したことが背景にあると指摘している。(大久保氏が、どのような改革を実行したのかについては前出の記事に詳しく書かれている。また、NHKプロフェッショナル仕事の流儀にも出演されていて、こちらも参考になる)。

この事実は、レックスHDというストラテジックバイヤー(戦略投資家=事業会社)の元で業績低迷していた会社が、ファイナンシャルバイヤー(金融投資家=投資ファンド)にスポンサーチェンジすることで業績を急回復させることができた事例(ファンド業界用語でいえば、いわゆる「バリューアップの成功」)として、極めて説明力の高い(因果的推論が成り立ちやすい)例と言える。

一般的にファンドが送り込む再生請負人というと、いわゆる「鬼のコストカッター」「短期利益志向の鬼」「美しい戦略(マッキンやBCGが綺麗なパワポで納品するやつ)の展開」といったイメージが強いが、大久保氏の経営スタンスはこれと全く異なる。

「売上を追うな」

「ロスは出せ」

「当たり前(挨拶、清潔、笑顔)がすべて」

こうした信念を持つ経営者を、思い切って社長に迎え入れて任せるというAPの判断は、結果的に成城石井の顧客、従業員に極めて良い影響を与えたということが言えそうだ。

私自身のM&Aアドバイザリーや事業戦略コンサルティングの経験では、短期的な売上追及やロスの削減、効率重視の考え方は、最近ではファンドと同じくらい、場合によってはファンド以上に事業会社において厳しい。さらに事業会社は、自社の既存事業とのシナジー効果を実現するために、買収後はかなり深く対象会社のバリューチェーン全体に関与してくることが一般で、買収された側の経営の自由度はかなり狭まることも多い。

こう考えると、M&Aのプレーヤーとして、戦略的投資家は善でファンドは悪、といったリーマンショック以降の風潮(と筆者は感じる・・・)は、必ずしも正しいとは言えない。業績で見ると、APがレックスHDを非公開化した時(2006年12月期)の成城石井の業績は、売上高約370億円、経常利益593百万円(非公開化直前のレックスHD有報)。これが、丸の内キャピタルに売却した時(2011年12月期)には、売上高約490億円、経常利益2,290百万円になっています。つまり、売上高は約1.6倍、利益は実に約3.8倍にも成長している。

もちろん、APも、関与した投資先が破綻したりして、その顧客や従業員に大きな影響がでるなど、すべての投資が成功しているわけでは当然なく、単純にファンド礼賛ということではないが。

■丸の内キャピタルによる成城石井の買収

APは、業績を急回復させた成城石井を、2011年3月に丸の内キャピタル傘下の買収目的会社に事業譲渡する。複数の情報記事によると、この時の事業譲渡価格は約420億円とされている。一方で、レックスHDが非公開化する直前の成城石井の純資産は105億円(レックスHD第20期有価証券報告書)。さらに、APがレックスHDの全株式を2012年9月に株式会社コロワイドに売却した際のプレスリリース(http://www.colowide.co.jp/ir/ir_file.php?ir_no=163)によると、レックスHDが2011年に成城石井を売却した際、レックスHDは171億円の特別利益を計上しているとある。

このことから、丸の内キャピタルは、対象会社の事業価値について、簿価純資産105億円(時価純資産と同値という前提)+営業権相当171億円=約276 億円で評価し、さらに負債を約144億円程度(420億円-276億円)引き継いだ可能性が高いと推察される。(420億円という買収価格が、企業価値ベースであるという前提に立っている。また各種税務インパクトは考慮していない)

ちなみに、今回ローソンが成城石井を買収した際のプレスリリースによれば、2011年11月期のEBITDAは4,630百万円。従って、丸の内キャピタルが買収した際の420億円というのは、EIBTDAの約9.1倍の水準であると推察される。2011年はリーマンショックの影響も残る非常に厳しい経済環境であった中、小売りの業態でEBITDA倍率が9.1倍というのはかなり強いバリュエーションだったと考えられる。それだけ成城石井の売上・利益の回復・成長が驚異的だったということの証左と言えるかも知れない。

■丸の内キャピタル下での成城石井とローソンへの売却

~売却価格にまつわる公開情報の分析~

では、丸の内キャピタル下での成城石井はどうだったのか。今回の買収に伴いローソンが発表したプレスリリース(http://www.lawson.co.jp/company/news/095084/)によると、売上高は2011年12月期2013年にかけて約11%、営業利益は約15%成長している。本業は、引き続き成長し続けているといえそうだ。

しかし、一方で気になる点もある。それは、経常利益がほぼ横ばいになっている点である。これは、丸の内キャピタルが買収する際に、LBOの手法を活用して、調達した買収ローン(またはその後借り替えたパーマネントローン)を、成城石井に負担させているため、金利負担が増加しているためと推察される。

前出のローソンのプレスリリースによれば、ローソンの株式取得額は363億円(FA Fee等除く)と明記されている。これに対し、複数の報道によれば、企業価値ベースの買収金額は約550億円と推察される。したがってその差額(有利子負債相当額)は187億円。前述の推察では、丸の内キャピタルが成城石井を買収した際に引き継いだ負債が約144億円であるから、少なくとも40億強はローンが増えている可能性が高いことになる。

丸の内キャピタルの保有期間が約3年であり、その間にすでに返済された分があるとすると、AP傘下の時代から引き継いだ分も合わせ、2011年当時、有利子負債は最大約200億円程度(当時のEBITDAの約4.3倍)まで拡大した可能性が高いと推察される。

以上の推察を表にまとめると次のような形となる。

成城石井

※なお、上記分析は公表資料及び関連公表記事を元づき、一定の前提に基づいて実施した弊社の推定分析であり、
当情報の正確性、客観性についてなんら弊社が責任を追うものではない。

今回、ローソンが買収した際の企業価値550億円は、13年12月期のEBITDAの約9.7倍であり、丸の内キャピタルが買収を実行した際の同倍率(9.1倍)と、大きくは変わらない水準と推察される。また、負債についても、買収時の144億円(弊社推計)から187億円に増加している。(なお、ローソンが公表した、成城石井の今年8末時点での直近12カ月のEBITDAは7,254百万円であり、これと550億円を比較すると約7.5倍である)

こうした公開情報からの推察を前提として、丸の内キャピタルとAPの投資動向についてもう少し見てみたい。

■投資ファンドのリターンの源泉

バイアウトファンドの投資リターンは、大きくは次の3つであるといわれる。

利益成長:利益が成長すれば、当然企業価値が増大するため、同じマルチプル倍率でリターンをより大きくすることが可能となる。投資ファンドにおいて、もっとも基本的なリターンの源泉である。
デットレバレッジ:買収資金の一部を買収目的会社が有利子負債で調達し、買収後に対象会社(事業)と買収目的会社を合併させることで、買収資金の一部を対象会社に肩代わりさせる方法である。いわゆるLBOといわれる手法で、バイアウトファンドの重要なリターンの源泉だ。しかし、対象会社の返済能力の多くが、対象会社とは無関係の買収ローンの返済に充てられることで、本業のキャッシュフローにネガティブな影響(典型的には負債返済負担により新規投資余力が減少する点)を与えることはよく指摘されるところであり、賛否の分かれる手法でもある。
マルチプルアービトラージ:
これは、例えばEBITDA5倍で買収して8倍で売却した場合に得られる裁定利益である。これが可能になるのは、一つにはマクロ環境の変化だ。景気が悪いときと良い時では、同じ業種・企業でもマルチプル評価が異なってくるため、この間で異時点間の裁定取引が可能になる。または、EBITDA倍率で評価されがちな伝統的な企業を、PERで評価されるような成長性のある事業ドメインの事業に変革して評価をアップする、といった意味合いが含まれることもある。また、買収時に入札形式になるか、相対取引になるか等も、買収時、売却時のマルチプルに大きく影響する。これらの効果を総合して狙う裁定効果がマルチプルアービトラージである。
この3つのリターンの源泉に照らして丸の内キャピタルの投資動向を推察(参考としてAPと比較)してみると、次のようにできる。

リターンの源泉

丸の内キャピタル

AP

利益成長

売上:1.1倍

営業利益:1.2倍

経常利益:1倍

売上:1.6倍

営業利益:不明

経常利益:3.8倍

デットレバレッジ(LBO)

引き継いだ負債に加えLBOローンを活用して株式投資効率を拡大(弊社推計では40~50億円ほどLBO負債を上乗せ)

算定不能

マルチプルアービトラージ

EBITDA約9.1倍で買収し、9.7倍で売却(推察)
※売却直前期の通期EBITDAによる。ただし、直近12カ月EBITDA7,254百万円を採用した場合は7.5倍

算定不能

AP投資期間中のデットレバレッジ、マルチプルアービトラージは、APが投資をした時点では成城石井がレックスHDの子会社だったため、単純に推定することは困難である。しかし、上記表を俯瞰して指摘できることは、総じてAPは利益成長による投資リターンの増大を実現したのに対し、丸の内キャピタルは相対的にLBOによるレバレッジ効果で投資リターンの増大を実現(もしくは意図)しているように推察されるということである。

■LBOローンの影響

ここで一つの懸念が生じる。過度な有利子負債の増加(しかもそれは本業の事業資金向けのものではなく、ファンドが買収した投資の肩代わり)が、成城石井の成長や発展阻害要因にならないか、という点である。

もちろん、LBOという金融技術自体は、それ自体がすべてネガティブだとは言えない。例えば、MBOの場合、経営陣やその親族・関係者が自社の経営権を買い戻す際に自ら調達仕切れない多額の金額に会社の財務余力を充てるというのは、ある意味妥当である。リーマンショック以降、株式市場が低迷した際は、経営者がLBOを積極的に活用して、ファンドを参加させてない形でのMBOも積極的に行われた。

しかし、今回のケースでは、APがレックスを非公開化した際も、そして丸の内キャピタルが買収した際も、ディールとしてはMBOではない。LBOは、純粋にファンドのリターン向上手段として活用されており、それにより成城石井の営業キャッシュフローの一部がこの返済に費やされていることは、成城石井の財務健全性や、ひいてはそれがボトルネックになっての成長鈍化を招く懸念がゼロとは言えない。このことから、今回のディールの目的は、広い意味では三菱グループ間の取引であり、単なる借金の付け替えだ、と皮肉る投資銀行家のコメントもネットでは散見される。

そこでやはり気になるのは、ローソンの買収戦略である。投資リターンが目的の投資ファンドから、事業の発展を目的とする事業会社に経営権が移った以上、ローソン自体の本業と成城石井のビジネスがどう相互に買収効果を発揮していくのかが、今後の成城石井の成長可否に大きく影響すると思われる。

■今回の買収の目的は、水平統合なのか、多角化なのか

筆者は、企業の全社戦略に照らして、事業会社のM&Aの目的はおよそ5パターンに分類されると考えている。http://ignitepartners.jp/column/macolumn/300-m-a-column.html

ローソンの事業ポートフォリオを勝手に大ざっぱに分類するならば、コンビニ(ローソン)、事業はキャッシュカウであり、競争優位性は高いが市場成長性に代表される魅力度は相対的に低下しつつあると分析できる。ここに、高価格帯、高級食材という新たな成長マーケットで圧倒的な指示を得ている成城石井を「スター」として事業ポートフォリオに加えるというのがローソンの基本的な狙いと思われる。

問題はこれが、既存事業(コンビニ)の延長、または周辺領域・顧客を獲得するという水平統合(筆者の分類では水平統合A型)なのか、それとも限りなく新規事業に近い「多角化」なのか、という位置づけが、ローソンのリリースや、その後の社長コメント等を読む限りでは良く分からない点である。この位置づけがあやふやなままローソンによる成城石井の統合が進めば、レックスHD下で成城石井の経営が低迷してしまったのと同様の混乱の再現が起きてしまうのではないか、という懸念がある。

筆者は、個人的には今回の買収に対するローソン全社戦略における位置づけは「多角化」であるべき、と考える。ただ「店舗型の小売り」という業態が一緒なだけで、ローソンがやっていること、やろうとしていることと、成城石井がやってきたこと、やろうとしていることとは、全く違うと理解しているためだ。

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■ローソンの成城石井支援戦略

ローソンの経営陣も、「成城石井にローソンの品を置くことはしない」というコメントを発している。いわゆるM&A後の統合において、もっとも気楽に使われる言葉の典型である、「クロスセル」などの言葉を安直に使わない点では、成城石井という会社のブランドや経営のオリジナリティに関する一定の尊敬が感じられる。

しかし、一方で、ローソンのプレスリリースにある、買収後のローソングループによるサポート内容には、少し首をかしげざるを得ないものもある。

プレスリリースによれば、ローソンは3つの機能で成城石井の成長を支援する、とある。一つはロジスティクス、もう一つは顧客データ分析ノウハウの提供、そして三つ目は、店舗開発支援である。

■ロジスティック支援は有効か

一つ目の疑問はロジスティックスの支援である。筆者は、本来ターゲットとする顧客、そしてその顧客への商品、サービスが異なれば、最適なロジスティックスも異なるものであると理解している。典型的なのは成城石井が持つワイン、チーズ、多様な世界のチョコレートなどは、成城石井の最新の物流センターで高度に管理されている。

万事こうした設計思想に基づく成城石井の物流網と、高効率、大量輸送、リアルタイム配送を設計思想とするコンビニの物流網にどのようなシナジーがあるのか、いまいちぴんとこない。配送トラック網の効率化は多少はできるかも知れないが、そのコストシナジーを重視するあまり、今の成城石井の商品、サービスに最適化されているはずの既存ロジスティックスがないがしろにされないか心配である。

■購買データ分析ノウハウ提供は有効か

ふたつ目の疑問は顧客データの分析ノウハウの提供、である。もっとも疑問なのがこれだ。筆者はIBM時代、基本的にはM&Aや新規事業戦略のプロジェクトを中心に実施していたが、そこは天下のデータカンパニーであるIBMだったということもあり、顧客データに関するプロジェクトもいくつか経験した。

そこでもっとも痛烈に感じたのは、データがどれだけBIGになったり、分析がリアルタイム化しようと、優れた分析の根幹にあるのは、顧客との関係の在り方や、提供価値へのこだわりといった、経営におけるより上位の概念であるということだ。

例えばコンビニの経営管理の代名詞と言われるPOSデータと連動したリアルタイム在庫管理。これにより、コンビニでは日々売れ筋商品と死に筋商品が評価され、死に筋商品はどんどん姿を消す。

こうしたノウハウのことを、購買データ分析ノウハウ、というのであれば、成城石井の酒類コーナーにあるたくさんのカシャーサなど、典型的な死に筋商品としてあっという間に駆逐されてしまいかねない。(そんなの冗談じゃない。一ユーザーとしてはもしそうなったらぷんぷんである。)

大体、ローソンの得意な顧客分析を成城石井に導入するならば、成城石井でポンタカードを使えるようにするということだ。しかし成城石井でポンタカード出すなんて、正直あまりぞっとしない。データのリンクは裏でやるとしても、表向きはせめて成城石井カード、などにしていただきたいものだ。ブランドは小さな綻びからどんどん陳腐化していく。

成城石井が持つ顧客への提供価値と、それを体現するために自社内の日々のデータをどう読み説くのか。そのノウハウは、まさに成城石井の内部(にいる社員さん達の中)にあるのであって、ローソンにあるわけではない。

■店舗開発支援は有効か

そして、ローソンが挙げている3点目の支援ポイントが店舗開発である。実は、これがもっともリアリティがある支援ではないか筆者は感じている。成城石井が、どんどん店を増やして、店舗のクオリティーが下がるとしたら残念だが、今の提供価値を維持しつつ、訪ねて気持ちのいいお店がより多くの人に知られるのなら、それは世の中にとってとても良いことだと思う。成城石井は9割が直営店だから、店舗開発で最も重要なのは全国の候補用地情報であろうし、ローソンの店舗開発力には成城石井は足元にも及ばないだろう。

そしてなにより、この店舗開発支援においては、それに必要な投資に伴う財務的な支援を、ローソンの潤沢な資金が可能にし得るという点である。前述の通り、成城石井は現在営業キャッシュフローの少なからぬ部分を負債の返済に充てざるを得ない状況と推察される。

有利子負債の残高は、13年12月時点でEBITDAの約3.2倍。決して突出して多い水準ではない。丸の内キャピタルが買収した際、リーマンショック後のLBOローン市場の縮小により、ハイレバレッジの調達が困難だったことも背景にあるだろう。

これは成城石井にとっては幸運だったといえる。しかし、もし、筆者の推察通り、事業の成長を担う店舗開発のスピードにおいて、資金がボトルネックになってるのであれば、そこをローソンの企業体力で補うという、いわば「財務支援」こそが、成城石井の成長に対してローソンが短期で確実にできる支援ではないかと推察される。

この筆者の分析を前提とすると、前出の、「借金の付け替えが買収の目的」という投資銀行氏のコメントは後ろ向きに過ぎるが(たぶん負けた側のアドバイザーなのだろうが)あながち間違いとも言えない。

そして、この見立てを前提すれば、ローソンは少なくとも当面は、成城石井に対する関与方針としては、「連邦統治」でいくべきだし、恐らく基本的にはそうするつもりと思われる。そして、小売コングロマリットの親玉として、連結で利益に貢献してくれればいい、くらいのおおらかなスタンスで、成城石井が、楽しいお店であり続けることを支援して頂きたいものだ。

■尊敬するすごいプロ経営者

それにしても、AP傘下時代に成城石井の再建を主導された、大久保恒夫氏という方は、本当にすごい方だと思う。氏は、丸の内キャピタルに経営権が移る前に、プロパー出身の(成城石井一筋20年)原社長(現任)にあとを託し、社長を退任されている。ファンドが関わった案件でもうひとつよく聞くのが、落下傘社長(または参謀)がいなくなった途端にまた会社が、がたがたになるという話だ。しかし、成城石井は大久保氏退任後も順調に業績を拡大している。これは、氏が単なる一過性の影響を与えるスター経営者/カリスマではなく、会社のDeNAや役職員のマインドを大きく変革させ、新しい企業文化を築かれた(または失われたものを蘇えらせた)から、とも捉えられる。JALを再生させた稲森先生ともだぶる。こうした本当の意味でのプロ経営者が本当にいるということを知ることができたという意味でも、成城石井はとても学びの多い会社だ。いついっても楽しいお店であり続けてほしい。