起業、投資、ベンチャーファイナンスに関するコラム
M&Aイグジットは日本のVC投資に根付くか
■ベンチャーキャピタルの投資回収(Exit)は、いうまでもなくIPOが最も望ましいストーリーです。一方でベンチャー投資はハイリスクハイリターンのオルタナティブ投資であり、VC投資先がすべてIPOに至るわけではないことも当然です。
下記のグラフを見ると、例えば2013年度ではIPO回収件数は117件(※1社に複数のVCが投資している場合があるため、2013年度のIPO総数58件とは一致しない)です。これはVCの回収件数728件の16%に相当します。他の年度でも、2010年度を除き10%を超える比率で推移しています。
これを、多いとみるか、少ないとみるかは立場によると思いますが、単純に投資件数の1割以上がIPOでのEXITを実現していると捉えれば、ハイリスクハイリターンと言われる割には悪い数値ではないのかも知れません。
■一方、次のグラフを見るとそれ以上に興味深いことがあります。VC投資の投資回収方法として、2009年度から2012年では、「経営者による持分の買戻し」が最も多かったということです。
経営陣による買戻しが多かった最大の原因は、この時期にIPO環境が悪化ことだと思われます。IPOや事業会社への売却が困難な環境下で、VCが経営陣への買戻しを求め、経営陣もこれに応じるケースが多かったのではないかと推察されます。
このような経営陣による買戻しは、経営陣個人に大きな財務負担を強いたであろうことは容易に想像されます。恐らく多くのケースではVCの投資簿価前後での買戻しになったと思われますが、VCとのハードな交渉になったであろうことは想像に難くありません。
一方で、このグラフからは新しい潮流の兆しも読み取れます。2013年に注目すると、すべての回収方法の中で、2009年以降初めて「売却」が最も多くなっています。既にいろいろな専門家が指摘していることですが、ここにきていわゆるIPOに必ずしも拘泥せず、一定の規模まで事業が成長したところでM&Aにより投資を回収する事に、経営者の抵抗感がなくなってきているのではないかと思われます。
■情報ソースと情報取得範囲が異なるので一概には言えませんが、下記のデータでは、米国ではベンチャー投資の出口はもはやM&Aが多数派ではないかと推察されます。これは、投資家にとっても、経営者にとっても、ベンチャー投資⇒回収⇒再投資のエコサイクルを回すために非常に有意義で、米国のVC投資サイクルの好循環を生んでいるということは多くの専門家の方が指摘されています。
日本でも、こうしたベンチャー企業の売却Exitが、なんとなく後ろ指を指されたりすることなく積極的に行われるような市場になればとても良い循環が生まれると感じます。しかし、こうした売却Exitにより、経営陣が損した気分になったり、投資家が「IPOの方が良かったのに」と残念に感じる、といったことは避けたいところです。
そのためには、中期資本政策、投資契約、株主間契約などを、お互いがきちんと理解して納得済みでゴールに向かっていくことがとても重要だと思われます。