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起業、投資、ベンチャーファイナンスに関するコラム

エンジニア起業家が真の偉大な起業家になるために必要なこと

作成日:2018年11月06日(火)

今でもごくまれに出会う残念なプレゼン

弊社はM&Aアドバイザリーや自動車業界の戦略コンサルティングを営んでいますが、ささやかながらスタートアップへの自己資金投資や投資後の資金調達サポートも、ライフワークとして行っています。その中で、起業家のプレゼンをお聞きしたり、資料を拝見したりする機会があります。最近は本当にレベルが高いという印象です。これは、善意あるさまざまな専門家や先輩起業家の方々が、自らのノウハウを惜しげもなく提供する活動を地道に続けてきた結果だろうと思われます。日本のスタートアップエコ体系の確かな前進を感じます。

しかし、なかにはやはり「その資料じゃだめだよ」というか「その考え方ではだめだナーー。」というプレゼンもあります。これは特にゴリゴリのエンジニア、技術者出身の方に多い問題です。これはプレゼン資料の作り方の問題というよりは、ビジネスに対する基本的な考え方の問題と思われます。このコラムでは、エンジニア出身起業家が陥りがちなポイントとありたい姿について書いてみます。

IBMワトソン研究所が開発した「Strategic Capability Network(SCN)」
エンジニア出身起業家にありがちな問題について、ポイントを端的に説明するための手段として、IBMのワトソン研究所が開発した「SCN」というフレームワークを紹介したいと思います。これは企業活動が顧客に提供する価値とその実現手段の関係性を整理した概念です。一般的には、ビジネス部門とIT部門の共通言語として活用するときに有用になるとされています。


SCN_YOSHINOYA.gif

注1:SCNはIBM Corprationが開発したビジネスモデルフレームワークである。
注2:吉野家の事例は、SCNの考え方を簡便に説明した例示にすぎず、提供能力や実現手段の網羅性を示すものではない。


 

 

提供価値と実現手段の2つの関係性
SCNが示す関係性のひとつは、「縦の関係性」です。つまり、ビジネスにおいて最も重要なのは、「顧客に価値を提供すること」であり、その結果として「企業のビジョンや理念」が達成されるという関係性です。「AI」や「ブロックチェーン」「優れた顧客基盤」などは、ビジネスの目的ではなく、顧客に価値を提供するための手段という位置づけになります。

SCNが示すもう一つの関係性は価値と能力、実現手段の「因果関係性」です。例えば吉野家の場合であれば、「はやい、やすい、うまい」という提供価値を提供するため、さまざまな組織能力(ケイパビリティ)を獲得しています。分かりやすい例でいえば、オーダーから30秒で牛丼を提供できる能力。この能力のうらには、店舗のレイアウトから従業員教育方法、サプライチェーンに至るまでほんとうに多くの様々な実現手段が関係しているはずです。

エンジニア出身起業家が陥りがちな点
冒頭で述べた「エンジニア出身起業家」のが陥りがちな点は、このSCNが示す2つの関係性のうち「縦の関係性」に思いが至らないということに尽きます。エンジニア出身起業家は、自身の技術について絶対的な自信を持っています。このことは本当に素晴らしいことです。しかし、ともすればそれが盲目的な技術価値信仰になり、それがどういう価値を生み、だれのどのような悩みを解決するか、いくら聞いてもよくわからない、ということがあります。これは少なくなくともビジネスをやろうとするのであればあり得ないことです。ビジネスとは、どのような領域であっても、誰かの課題や悩みを解決して、それによって対価を得る活動だからです。

そんなばかな、最近の起業家でそんな人いない、という指摘も聞こえそうです。しかし、実はこれは起業家側だけで見られる現象ではありません。「ブロックチェーン」しかり「AI」しかり、優れた技術はいつの時代も過剰な期待を生み、それがもたらす価値がよくわからないまま、注目度ばかりが先行することはいまでもよくあります。そして、数年してその期待値が修正されるということが社会全体で繰り返されています。このような現象は、よく「ハイプカーブ」という考え方で表現されます。私は技術とそれが実現する価値の間に生じる期待ギャップとその修正の繰り返しを表すものと理解しています。もちろん期待外れで終わるものもありますが、クラウドのようにハイプカーブを経てキャズムを大きく超え、地殻変動をもたらす技術もあります。


まんぺいさんは80枚の鉄板を見て塩をつくることを思いついた(ネタバレ注意)
SCNの考え方をより端的に説明するために、ひとつの事例として、日清食品を一代で築いた天才起業家、安藤百福氏をモデルとした朝ドラ「まんぷく」のエピソードを取り上げてみます。私も「マッサン」以来、久しぶりにこの「まんぷく」に夢中です。最初は安藤サクラさん演じる「ふくちゃん」の個性的な魅力に取りつかれていました。しかし最近は夫のまんぺいさんのあじわい深さにもドはまりしています。

先日の放送で、大阪の泉大津に引っ越したまんぺいさんは、中になにがあるかもわからずに買い取った倉庫の中で80枚の鉄板を発見します。そして、これでなにができるかと悩みます。そして、家族との外出がきっかけでその鉄板を使って塩をつくることをおもいたちます。


これは、SCNの考え方でいうなら、鉄板という「実現手段」が先にあって「世間で足りない塩をつくる」という提供価値を結び付けたケースといえます。SCNの関係性のひとつとして前述した、「実現手段と提供価値の因果関係」が、彼の中で結びついたといえます。

このように、「実現手段」からビジネスを思いつくことは自体はよくあること(というよりむしろそちらの方が一般的かも知れません )です。本コラムの趣旨も「技術からビジネスを発想することが間違い」ということでは決してありません。しかし、まんぺいさんが起業家として偉大なのは技術的知見や能力がありつつも、常に、「ヨノナカの課題を解決する」ことが発明家としての前提にあるところです。逆に、どんな優れた技術者でも、「社会課題やヨノナカに対する関心」が本質的にないのであれば、起業家になるべきではないと私は考えます。

課題に感心がない技術者はなぜ起業してはいけないのか
塩づくりに取り組むことを決めたまんぺいさんですが、てっぱんだけで塩をつくることは当然できません。これから様々な組織能力や実現手段(塩づくりのノウハウや、塩づくりの職人、販売チャネル、営業体制)を獲得して、価値の実現に向けたネットワークを構築しなくてはなりません。

提供価値と実現手段の因果関係は、相関関係とは異なり「時間軸を伴った関係性」ですから、どのような実現手段と組織能力を持ては、価値を実現できるかどうかは、試行錯誤を繰り返すしかありません。これこそをが経営の苦しみであり、この因果関係を見つけ出し、構築することは非常に困難を極めます。技術にしか関心がないエンジニア起業家は多くの場合、この困難が「僕がやりたかったことではない」から耐えられないのです。

逆に、もしそのようなエンジニアでも、なにかをきっかけに、社会やビジネスの課題に高い感心をもつかもしれません。そして、まんぺいさんのようにその解決のために自分の技術力を駆使したいと心から思えるようになるならば、優れた起業家になれると私は考えます。

課題意識はあるが、実現手段のない(そこを全面的に人に頼らざるを得ない)起業家より、高い課題意識と優れた技術が同居しているまんぺいさんのような起業家こそ、手触り感のある本当のサービス・プロダクトを創ることができる、偉大な起業家になれる可能性があるのではないか。極論すれば、それ以外の経営資源は、ほぼ買えるし借りれるのです。

あなたの会社は売れるか?~理想のM&Aイグジットを実現するための売却プロセスの考え方〜

作成日:2017年08月07日(月)

前回のコラムでは、M&Aを検討する創業者(イメージとしてはベンチャーの創業者で30代~40代。売却時点で少なくとも50%超のシェアを維持。)の方が、望ましいM&Aイグジットを実現するための基本条件として、営業キャッシュフローで資金上自走できていること(ベンチャー界隈の用語でいえば、バーンレートがカバーされていること)を挙げました。

 

 

そこで今回はその続編として、このような最低条件を満たすことができた会社の創業者が、できるだけ好ましい条件でM&Aを実現するためには、どのような手続きやプロセスを検討すべきか、ということについて、弊社の考え方を述べてみたいと思います。

 

 

売却プロセスは、原則として入札(書面による意見表明を求める)を基本に考えるべき

 

当たり前すぎてすみませんが、やはり結論としては、入札プロセスにすべきというのが弊社の考え方です。もちろん、入札には相対取引に近いものから、完全競争入札まで様々な方法があります。弊社では、準相対取引に近い形(1社ずつ順番に検討してもらうような形式)を想定しており、いわゆるクロスボーダー案件でみられるような完全競争入札は想定していません。

しかし、いずれにしても1社とのみ完全相対で交渉していくことは、創業者にとっても、ステークホルダーにとっても、メリットよりもデメリットやリスクのほうが多いというのが弊社の見解です。

 

 

なぜ入札にするのか

 

入札というと、ただ値段を吊り上げるための強欲な行為として、誠意ある買い手からは忌み嫌われるのではないか、というご指摘をいただくことがあります。また、ビジネスポリシーとして、そういうやり方は嫌いだという創業者の方もいるでしょう。弊社も、ただ短絡的に価格を吊り上げるために、入札にしたほうが良いという考え方ではありません。

 

 

また、極端な話、創業者、およびその血縁者や共同創業者のみで株式を保有していて、外部投資家等の資本参加がない場合は、どんなやり方であれ、創業者の方がやりたい方法で売却が実現すればそれで問題はないと考えます。

 

 

しかし、外部投資家(ベンチャーキャピタルなど)が資本参加している場合は別だと考えます。例えば、一般的なベンチャーキャピタルは、ざっくりいうと10年で4倍(IRR=約15%)という期待収益の実現をLP(ファンドの出資者)に対してコミットしています。預かったお金を10年で4倍にして見せます!とコミットして、資金を集めているわけです。

 

 

投資家は、LPからのこの高いプレッシャーにさらされながら、ベンチャー創業者の人格や夢と希望、そして事業を信じて十分な実績のない会社に投資をしているわけで、そうした期待に少しでも報いるならば、やはりできるだけ公正なプロセスで売却を実現して、支援してくれた投資家に対する説明責任と受託責任を果たすべきと考えます。

 

 

いたずらに値段を吊り上げることが入札の目的ではない(弊社のスタンス)

 

 

ただし一方で、これからさらに事業を成長させていくための頼りがいのあるスポンサーとして、誠意をもって買収を検討していただく買い手候補の方に、入札プロセスを通じてただ値段を吊り上げる強欲経営者のような印象を与えてしまうのは当然避けるべき事態といえます。また、本来的な価値に見合わない高い金額でのM&Aは、仮に実現したそのときはよくても、買収後に過大な成長目標を課され、結果として事業がおかしくなってしまう場合もあります。

ではなぜそれでも入札形式したほうが良いのか。これについて弊社の考えを少し詳しく書いてみます。


 

入札にする理由1:M&Aの条件決定は複雑な連立方程式を解くことと同じ。お互いの思い込みから誤解が生じやすい



M&Aは平たく言えば会社の値段を決める取引ですが、会社の値段(すなわち企業価値)をその会社の状況に応じて、売り手、買い手総合が双方一切の誤解なく納得して合意することはかなり骨の折れる仕事です。経営者のシェア、ストックオプションの発行状況、外部株主の資本参加状況、投資条件(普通株式か、優先株式か、またその条件・内容)等、企業価値に影響を与える変数は多くあります。

また、これに加え、ベンチャーの場合は特に会社の価値に占める創業者の人材価値や技術者等のキーマンの人材価値が非常に大きい場合があります。買い手候補は、こうした経営人材がM&Aをきっかけに事業から足を洗う、または事業意欲をなくしてしまうようなことがあると、会社の価値そのものが大きく棄損するかもしれないと強く懸念します。

 

従って、買収後の経営者やキーマンの処遇については、買収価格と密接不可分の関係性になります。これはどちらかが変わるともう一方が変わるというような、連立方程式の関係になることも多いため、満たすべき条件を明確にして、売り手と買い手の間で誤解や齟齬が生じないように留意する必要があります。

 

 

そのためには、買い手に求める条件を書面に明文化して正確に買い手候補に伝達し、買い手はその条件を明文化して提示し、丁寧に合意を取っていくことが重要です。このプロセスのことを弊社では入札と呼称しています。

 

 

入札にする理由2:大組織の公式な意思は「紙」をもらわないとわからない

 

 

ベンチャー企業の多くは、創業者がある程度まとまったシェアを持っており、意思決定者も多くはないため、意思決定プロセスは比較的シンプルです。しかし、M&Aを検討するような大組織(上場企業など)は、意思決定プロセスも複雑です。


よくあるケースとしては、「私は社長から全権を委任されていて、M&Aの最終意思決定権がある。」という投資責任者でも、実際に投資委員会や取締役会で、社外取締役や管理部門のトップ、または利害関係のある事業部門責任者に反対され、実際に会社として正式に承認プロセスを経たオファーレター(意向表明書)やMOU(基本合意書)を提示することができないケースがままあるということです。これは、M&A責任者がどんなに優秀でも、必ずあり得る事態で、カウンターパートの方の案件遂行能力の優劣とは異なる次元の問題です。



もし、きちんと書面の提示を求めるプロセスを経ていれば、このように担当者の意思と企業としての意思決定が異なり、プロセスが進まないことが明確になるため、このような「ちゃぶだい返しリスク」を避けることが可能です。


しかし、目の前のM&A責任者が「私が全権委任を受けています。私とあなたでどんどん詰めましょう。」といった流れで、なんとなくプロセスが進むと、いざ会社としての公式な意思決定という段階まで来て、いきなりちゃぶ台がひっくり返されてしまうケースがやはりままあります。このような場合、売り手、買い手双方がディールブレイクまでに要した少なからぬ時間とコストが、無駄に費消されることになります。



しかし、あらかじめ、きちんと「紙」を出してもらうプロセスを経ていれば、時間とコストがお互いにかかるようなフェーズ(DD等)まで進む前に、買い手候補の社内に大きな障害があることが早い段階で明確になるでしょう。



入札にする理由3:一定の期間内に結論を出してもらう必要がある




3つめの理由は、やはり期限を切って相手の投資判断を仰ぐ必要があるということです。これは、M&Aのみならずベンチャー投資の意思決定にも言えることですが、投資意思決定というのは非常に大きなエネルギーが必要です。最終的「やる!投資する。買収する。」と決めるのは非常に大きな心理的プレッシャーがかかるため、投資する側はどうしても「もう少しゆっくり、じっくり検討したい。あれも、これもしっかり見極めたい。」というインセンティブが強く働きます。もちろん、売り手側はこうした買い手の事情や意向をきちんと理解し、誠意をもって対応する必要がありますが、かといっていつまでも結論がでないまま時間とコストだけが浪費されていくことは避けるべきです。ベンチャー経営者の時間という最大の経営資源は限られているためです。

 

 

もちろん、入札プロセスの進め方には、コミュニケーション戦略も含め、細かい留意点、ポイントが多くあります。このコラムでそれらすべてに触れることは難しいのですが、特に外部資本を受け入れている創業者は、会社は自分だけのものではない状態にあるわけですから、できる限りステークホルダーの期待に応え得る合理的なプロセスでの売却を目指すべき、というのが本コラムの趣旨で、しかるべきタイミングでの事業売却を目指す創業者の方は、決して憶することなくリターンの最大化を合理的に目指していただきたいと考えます。

 

 

M&Aイグジットについて可能性を検討したい創業者の方で、相談相手をお探しの方がいればお気軽に弊社までお問合せください。初回ご相談(1~2時間程度の面談・電話・スカイプ協議)は完全無料です。




お問合せはこちらから
http://ignitepartners.jp/contact.html

ストックオプション発行は何%までならOK?~10%説はほんとうか~

作成日:2015年10月19日(月)

平成9年改正商法前のストック・オプション(SO)制度の旧制度では、付与できるストックオプションは発行済株式総数の10%以下と定められていました。しかし、その後平成13年の商法改正により、この付与制限は撤廃され現在に至ります。


ストックオプションは十分な報酬を現金で支払うことが困難なベンチャー企業にとって、優秀な人材を獲得するためのとても重要な手段となっています。しかし、無制限に発行して良いものではないことは当然です。

 

ストックオプションは、税務の観点(例:税制適格、インセンティブ設計の観点(例:べスティング)など、非常に多面的な検討が必要な、コーポレートファイナンス理論の10種競技といった分野です。しかし、ここでは、将来の株式公開を想定した場合の株価形成の観点に絞って、発行済株式数の何%程度までがSOとして妥当かを分析してみたいと思います。

 

下記は、2014年~2015年8月までに上場した新規公開会社で、ストックオプション目的の新株予約権を発行している企業の発行済株式総数に対する新株予約権の比率を表したものです(SO比率)。発行していない会社及び、目論見書に明記されていない会社は除いています。(メケンですので、完全な正確性や網羅性を保証するものではありません)

so1

 

↓ ここから2014年

so2

これらの企業のSO比率の平均値は、10.73%。中央値は10.16%です。(ちなみに最大値は26%) このデータを見る限りでは、旧商法の規制が撤廃された今でも、結果的には発行済株式数の10%程度というのは一つの目安といえそうです。これは、将来換金目的の売却圧力が強くなりすぎないよう、発行会社と上場主幹事証券が協議してこの程度を妥当と判断しているためと思われます。


ちなみに参考として、これらの企業におけるベンチャーキャピタル比率を見てみると、平均約15%、中央値で約9%となっています。ベンチャーキャピタルは、株式公開までをサポートする投資家ですので、一般的には上場後一定の期間で株式を市場で売却していきます。従って、これもまた株式の需給面ではマイナスと捉えられるため、上場を考慮して資本政策を検討する場合に考慮すべきポイントのひとつとされます。




こうした優先株式やVCの比率については、主幹事証券と発行会社、及び既存株主との間では必ずしも経済的便益が一致しないため、公開に向けて大きな論点となる場合があります。主幹事証券は、市場での順調な株式の消化、安定的な株価の形成、主幹事としてのリスクテイク等々を総合的に勘案する一方、発行会社は調達額(公募する場合)の極大化や既存株主への貢献を考慮する必要があるからです。私自身、投資ファンドで投資先企業のIPOを支援させて頂いた際、これらの点について主幹事からはかなり強くで言われた記憶があります。(協議というより、いわゆる「指導」というイメージ)




優先株式比率やVC比率を大きくしすぎないようにすべきという主張の最大の根拠は、先ほども触れた、株式公開後の売却圧力になり、安定的な株価の形成に影響を与えると考えられるためでしょう。しかし、株価が安定的に拡大するかは、当然発行会社の業績や市況等の総合的な影響を受けます。本当にストックオプションの量やVCの比率は、その後の株価に影響を与えているのでしょうか。

 

 so3

上記は、SOを発行している企業のSO比率とVC比率を合算した値を、「売却圧力比率」として横軸にとり、前述のSO発行企業の初値時価総額と6ヶ月後の時価総額を比較した場合の騰落率(変化なし=0)を縦軸にとって、両社の相関関係を検討したグラフです。これを見ると、決定係数R2乗値は0.1以下であり、ほとんど相関はありません。

 

また、SO比率、VC比率をそれぞれ個別にみたグラフは以下の通りです。

 

so3

 

やはり時価総額の成長との相関関係はほとんどないことが見て取れます。もちろん、サンプル数がが十分ではないため、この分析を持ってSO比率は10%より高くても良いとか、VC比率は気にしなくても良い、と主張することは間違いですが、少なくとも株価が下がるから10%以上のSOはダメ、といった杓子定規な主張も、合理的根拠があるかどうかは慎重に確認する必要がありそうです。


 

※注)ここではグラフ化していませんが、手元の計算ではストックオプションやVCの出資を全く受けてない企業群は、どちらかを行っている企業群に比べて時価総額の上昇率が高い傾向が出ています。従って、「VC出資やSO発行をしても、全く株価に影響がない」ということではありませんので、念のため)。


 

ビジネスモデルや成長ステージによっては、VCの支援がより必要な場合が当然あります。また、従業員のみならずパートの社員等にもSOを発行することを検討する場合、10%を超えることもやむを得ない状況も多々あると思われます。これらの水準については、10%ありき、といった議論ではなく、発行の趣旨と目的をしっかりと主幹事証券に説明し、会社の成長に大きく寄与するものであることを理解してもらう必要があります。一方で、創業初期に明確な意図もなく、とりあえず発行したしたストックオプション等が多い場合は、それが本当に成長に資するものなのか、事業の総合的発展を鑑みて検討する余地があるかも知れません。

 

 

 

あなたの会社は売れるか?~ベンチャー創業者が理想のM&Aイグジットを実現するための条件~

作成日:2017年04月17日(月)

弊社では、M&A戦略の立案や、ファイナンシャルアドバイザリー業務を主業としつつ、微力ながらライフワークとしてベンチャー企業向けのサービス・ご支援を手掛けています。こうしたお付き合いを続けている中で、最近はベンチャー企業の社長から、「IPO以外にM&Aも視野に入れて考えていきたいのですが・・・」というようなご相談を受けることがぼちぼちあります。

そのようなご相談を頂いた場合、弊社では、基本的には成功報酬で業務をやらせて頂いているため、ディールが成功し得るのか、見極めてから業務を受けざるを得ません。そこで、こういったご相談を頂いた場合は、対象会社の売却実現可能性診断、ということを最初にやらせて頂いております。

 

そして、これまで、このような売却実現可能性診断をさせて頂いた場合、残念ながらほとんどの会社が、「売却実現性なし」ということで、成功報酬ベースでのアドバイザリー契約をお受けすることができないというのが実態です。そしてそのたび痛感するのは、創業者は当然ながら、自分の事業に対する思い入れが強く(その分、当然高い価格で売れて当然、という思いも強く)、なかなか客観的に自社の売却可能性を理解するということは難しいということです。


そこで、本コラムでは、創業者の方が満足できるような、理想のM&A/事業売却が実現できる「重要なポイント」について、弊社の考え方として、3つの条件をご紹介します。(あくまで、弊社の考え方、です)

条件その1:資金的に自走できてるか

まず最初の基本として、営業CFで月々のキャッシュアウトを賄える状態に来ているかという点が極めて重要です。ただし、積極的な広告宣伝によりキャッシュフローが赤字という場合は、こうした成長投資を仮に抑制すれば、実質的にキャッシュ上自走できる状況にあるか、という意味になります。


この状態まで来ていないと、本質的には、売り手の交渉力はゼロになります。つまり、買い手は、会社の資金が尽きるか、尽きる直前まで待っていれば、適正価格よりも十分に低い価格で買い取れる可能性があり、基本的に、交渉を長引かせるほど有利になります。自走しているかどうかは、交渉力を持って、M&Aの成果を最大化するためには、最低限の絶対的な条件といっても良いでしょう。不良債権問題がたけなわだった時代、多くの銀行や企業が非常に低い価格で外資企業に買収されていったのは、いうまでもなく、資金繰り上のデットラインがあり、全く交渉にならなかったからです。

もちろん、特にベンチャーの場合は、自走していない会社の売却が実現するケースもあります。しかし、そのほとんどの実態は「アクハイヤー」(Acquisition+Hireの造語で、ITエンジニア集団等の市場で確保が困難な人材を、買収を通じてまとめて大量採用する)というケースではないかと弊社は考えています。弊社では、アクハイヤーは大規模採用活動のひとつの手段と捉えており、本質的にはM&Aではないと定義しています。

キャッシュフロー上自走していない状態でアクハイヤーが起きるのは、多くの場合資金が尽きる直前であり、実態としては救済M&Aに近い形を取るため、満足いく価格で売却することも難しいでしょう。特に外部投資家から資金調達している場合は、最低限、支援していただいた投資家等に、優先分配等を返済して(A種優先株スキーム等を活用している場合)、創業者は、出資元本がぎりぎり帰ってくればそれでよし、というのが落としどころにならざるを得ないはずです。

条件その2:
買収先の顧客に、すぐ売り込めるプロダクト・
ービスを持っているか。または、ロイヤリティの高いユニークなセグメントの顧客・ユーザー群を持っているか。

 


ベンチャー企業のM&Aにより、買収側に期待されるシナジー効果は、基本的には次の2つになります。


① 製品クロスセル
買収したベンチャーの製品、サービスを、親会社の顧客に展開する。

② 顧客クロスセル
親会社の製品、サービスを、買収したベンチャー企業のユーザーに展開する。

 

 

M&Aを検討するような大企業は、基本的には確立された顧客基盤を持っており、この既存顧客基盤に提供できる新たなプロダクト、サービスを常に探しています。このようなサービス、プロダクトを持っている企業を買収するというのが、①の製品クロスセルシナジーであり、ベンチャーのM&Aの多くは、このケースと思われます。

※但し、最低限のーザーに自社のサービスが売れている(プロダクトマーケットフィットが証明されている)ということが大前提。(製品・サービスコンセプトはあるが、開発中、または売上はまだこれからというケースではまず売れない)

また、特定職業や特定の年齢層など、ユニークな顧客基盤を持っているベンチャーは、そうした顧客基盤へのリーチができていない企業にとって、M&Aのターゲットになり得ます。特定の顧客基盤を持っているということは、その前提として自社の製品・サービスがユーザーにフィットしていることの証左でもあるため、こうした企業は、プロダクト、顧客の両方を取り込む狙いで、M&Aを実現させたい企業はきっといるでしょう。

 

 

条件その3:創業者が手離れできる状態まで来ているか

 

 

多くの創業者は、M&Aで事業を売却したら、一旦その事業から身を引いて、ちょっと骨休めをしつつ、新たなインプットを増やしてまた新たな事業を立ち上げたい(いわゆるシリアルアントレプレナー的なキャリア)、またはエンジェル投資家として、ベンチャー支援をしていきたいと思っている方が多いのではないかと思います。

そのような状態を望む場合、買収後の会社に従業員や役員として残り、業務の引継ぎのみならず、親会社の成長にコミットを求められたり、買収代金がその後の成果に応じて分割払いになったり、アーンアウト条項(ひらたくいうと成果報酬型での対価の受取り)をつけられたりすることは避けたいと考えている創業者の方が多いと思います。もちろん、キャリアとして大企業で思う存分大きな仕事をやるという選択肢も十分やりがいのあることでしょうし、どちらを選択するかは経営者の価値観によるかと思いますので、これは個々の判断です。


しかし、もし創業者が、すっきりとした引退を望む場合は、やはり、社内体制や組織がしっかりしているか、事業を取りまとめてくれるリーダーや社員はしっかり育っているか、などの体制整備が重要となります。また、残って引き続き事業を育てていくリーダーや社員が、新しい会社のもとで、満足いく条件で、やりがいを持ってはたらける環境を交渉過程できちんと勝ち取ることなども、創業者についてきてくれた従業員に報いるためには重要でしょう。

 

 

M&Aを、義理人情だけで判断することはできない

 

「キャッシュフローが枯渇するのを待って買いたたくなんて、そんなひどい人は僕の周りにはいないし、ビジネスは信頼だ!」という創業者の方も多いと思いますし、信頼がビジネスの根幹であることも、いうまでもありません。ましてや、M&Aのような大きな意思決定は、双方の信頼関係がなければ、お互いがただ不幸になるだけでしょう。信頼関係があることは、すべての大前提です。


しかし、一方で、M&Aは、買い手、売り手、それぞれの株主への説明責任や従業員への説明責任が明確に生じる重大な意思決定であり、買い手にも売り手にも、高度に経済合理的な判断が求められます。特に、M&Aを買い手として手掛ける大手企業(多くは上場会社でしょう)は、多くの株主や利害関係者、外部役員等の監視の目もあり、経済合理的に行動する必要があります。つまり、合理的であることは、残酷とか、非人間的、とか、人を信頼していないとか、そういう話ではなく、経営者にとっての「義務」と捉えるべきでしょう。


もちろん、M&Aは交渉ごとですから、どう考えても合理的と思われない、おかしな実例というも数多く存在します。しかし、社長の一存で、DD専門家の指摘を都合よく解釈、あるいは無視して、実態が良く分からないメディアの事業を、何十億もの大金で「えいやー」で買ってしまうようなことは、本来、特に上場企業では許されることではありません。創業者として、自社と自社のサービスを発展的に存続させる手段として、M&Aを真剣に検討するのであれば、そのような「エイヤー」系の会社にたまたま売れてラッキー、というような売却は目指すべきではないというのが弊社の考えです。


信頼関係がしっかり構築されていることを前提として、売り手・買い手・双方の経済合理性にあうストラクチャーとバリュエーションでの売却を目指すべきであり、そのためには、上記のような条件をひとつの参考として念頭に起きながら、会社をじっくりと磨き上げていくことが、結局のところ「王道のM&A」に向けた一番の近道だと弊社では考えます。


~今回は、「売却できる会社の基本的な条件」について書きました。次回は、「そうした条件に(部分的にでも)合致する会社」を、最も良い条件で合理的に売却するためにはどうするべきか、「成功するM&Aイグジットの売却プロセスの肝」について、コラムを書いてみたいと思います。~

譲渡制限株式とは ~譲渡制限株式は「承認がないと売れない」株式、ではありません~

作成日:2016年10月04日(火)

ほとんどの非公開会社は、定款に株式の譲渡制限を定めています。この株式の譲渡制限制度は、会社にとって望ましくない法人、個人が、ある日突然株主となって会社の経営を不安定化させることを防止するためです。しかし、資本政策の話を経営者の方とお話ししているとき、この「譲渡制限株式」の意味についてちょっと誤解している場合があると感じます。

 

誤解の典型は、「譲渡制限株式は会社の承認がない限り絶対譲渡できない。(だから安心)」という勘違いです。

そもそも株式会社制度は、資本充実の原則に基づき、資本の払い戻しを原則として認めていません。従って、株主は、自己の財産を他者に有償で譲渡することにより換金する手段を法的に与えられています。(株式譲渡自由の原則)これが「原則」です。株式市場に、プライマリー市場(発行市場)とセカンダリー市場(流通市場)があるのはこのためです。

一方で、多くの未上場企業は、冒頭に述べたように、小さな規模で同族的に営まれている企業に、好ましくない外部のものが株主として参画してくることを防止するため、譲渡制限株式制度を活用して株式に譲渡制限をかけています。しかし、「株式譲渡自由の原則」にたいして、これはあくまで「例外」です。

で、なにが言いたいのか。

もし、ベンチャー企業にマイノリティーで出資している株主が、具体的な譲渡相手と譲渡条件(価格、株数)等を明示して会社に対して譲渡承認を請求してきた場合、会社はその譲渡を認めるか、それを認めない場合は、会社でその株式を買い取る、または他の株式買取者を指定しなくてはなりません。端的にいうと、株主に対して「出口」を確保する義務があるわけです。「うちは譲渡制限会社だから譲渡はだめよ。以上、終わり。」ではありません。

具体的な譲渡制限手続きは、法律専門家に確認頂くべき事項ですので、このコラムでは割愛しますが、原則として、譲渡自由なもの(株式)に例外的な制限をかけているだけというが譲渡制限株式ですから、株主が具体的な相手方と条件を指定して、譲渡の承認を会社に請求してきた場合は、株主が自己の財産を換金する権利を会社が阻害することはできないわけです。

で、それはどういうことなのか。

ベンチャー企業において、この譲渡制限株式制度の意味合いを理解していないままどんどん株主が増えてしまうと、共同出資者や少数株主と方向性の違い等が出てきた場合、もめごとになってしまう場合があります。会社の価値がある程度上がっているような場合は、買取請求があった株式を会社で買い取るにしても、指定買受人を探すにしても、結構大変です。(譲渡請求を不承認とした場合は、譲渡不承認の通知から40日以内に、会社が買い取るか他の買受人を指定する必要があります)

資本政策を立案する際に、特に初期の株主構成をどのようにするか、こうしたことを踏まえてよくよく考慮しておく必要があります。洗練された形としては、創業株主間契約書などを締結するなどの方法がありますが、なかなか創業当初にこういう話をするのもやりづらいものです。

結論:

・創業初期の株主構成検討は慎重に(当たり前か)

・少数株主ともきちんとコミュニケーションをとって良好な関係を維持する(これ、重要)

※少数株主なんてしょせん議決権も少ないし、適当にあしらっとけばええやん⇒×

ちなみに、投資家(VC)等から出資を受ける場合、株主間契約書を締結することが一般的ですが、株主間契約におけるもっとも重要な決め事は、この譲渡制限株式を譲渡する場合どのような条件と手続きを課すか、という点です。ドラッグアロングとか、タグアロングとか、経営者にとっては複雑で分かりにくい概念に感じる人も多いようですが、譲渡制限株式の譲渡に関する基本的な法的枠組みを、より具体的に取り決めるものだと捉えると、少しわかりやすくなるかも知れません。






ビジネスにおける「縦パス」理論~営業できないベンチャーはつぶれます~

作成日:2016年05月17日(火)

とかく完璧な人間というのはヨノナカにはおらず、それは起業家でも同様だと思います。テクノロジーギークで、技術に詳しい人、研究開発者、分析が得意なコンサルタント(いわゆるデリバリー領域が強い人)は、対外営業、マーケティング領域は弱いことが多いです。逆に飛び込み営業も辞さない行動力のある人は、えてして技術やサービスデリバリーに弱いものだと思います。

これはスタートアップでも大企業でも本質的には変わらないと思います。営業、マーケに強い人と、技術者が2名でスタートアップを立ち上げると、大体2人の間で次のような問題が生じます。

「早く営業できるもの開発してよ!」

「いいかげんなもの開発できないんだよ!」

この会社が大きくなって、二人の間に1,000人ずつ部下ができたら、これはもう大企業で日々生じている問題そのものになります。人数が多くなると、やれマトリックス組織で解決だとか、能書き系コンサルはすぐそういうことを言いますが、本質的には人の衝突であって、解決できるのは、トップ同士が、常にユーザーを念頭に置いて、異なる領域の互いを尊重し、尊敬しあえるかどうかに尽きるでしょう。(ソニーしかり、ホンダしかり、高度成長期の日本企業のトップはみなこういう尊敬しあえるチームだったのだと私は思っています)

しかしそれでも、やはり真剣であれば真剣であるほど、両者は衝突するものだと思います。では、スタートアップ企業で、(あるいは大企業の新規事業開発部署で)、こうした衝突が起きたとき、結論を出して行動しなくてはならないとしたら、どうするべきでしょうか。

私は、個人的には、スタートアップは、営業ができないと死んでしまう、と思っています。優れたプロダクトを作り、それをウェブサイトにアップしても、それだけでは誰も見てくれません。(当たり前で恐縮です)。HPに流入を促し、認知をあげ、使ってみてもらって初めて、ユーザー体験が生まれるわけで、そこからのフィードバックでさらにプロダクトを磨き上げていくしかありません。これは、いわゆるウェブマーケティングという言われる活動ですが、実態はこつこつと積み上げていく営業に他なりません。

 

さらにいうならば、この活動よりさらに一歩前にあるのが、「顔の見える世界での営業」です。「ちょっとこういうサイト作ってみたんだけど見てくれない?こういうアプリ作ってみたんだけどちょっと使ってみてくれない?」と、お願いできる仲間がどれだけ周りにいるか、もしくは自分で開拓できるか。

私はこれをサッカーになぞらえて、「縦パス」と呼んでいます。ファンになってもらえる仕組みをプロダクト内につくり込んだり、フェイスブックやツイッターでつぶやいたりすることもすごく重要ですが、これはいわば「横バス」です。横パスは、相手チームのディフェンスラインを崩したり、パスの出所を分からなくしたりと、重要な役割をしますが、やはりここぞというときはズバッと縦パスを入れないと、ゴールは生まれない。

縦パスはかなりの確率ではじかれるので、結構心が折れますが、そこでくじけたら何も生まれないわけです。そして、縦パスとは、平たく言えば、「営業」だと思っています。(マーケは、どちらかというと「横パス」です。)
縦パスができない人や組織は、得てして「広告宣伝費を突っ込めばもっと売れるはずだ」という発想になりがちだと感じます。もちろん、広告宣伝は重要ですが、その前に、縦パスを通じて得たファーストユーザーのフィードバックをきちんとプロダクトに咀嚼する過程が繰り返されてからこそ、顧客獲得コストが下がり、広告宣伝効果も高まるのだと思います。

かなりの自戒も込めて、「折れずに縦パスを出し続けんといかんね」という話でした。

ちなみに、この縦パス、横パス理論は、私が尊敬するスーパー会計士、(ハイクオリティのM&Aサービスを自分でデリバリーでき、かつ自分でバンバン売りまくる)の方の理論を参考にしております。弁護士、会計士、税理士等の士業の方は、やはり根っからのデリバリーのプロなので、得てして営業が苦手だと思いますが、中には入院中のベッドの上からウン百万の仕事を受注してしまう剛の者もいるわけで、ヨノナカは広いと思わされます。

Slush Asia に行ってみた

作成日:2016年05月15日(日)

13-14日の二日間に渡って幕張で開催されたSlush Asia(http://asia.slush.org/) に行ってみました。最初は、居場所なかったらとっとと帰ろうとか、リア充感満載過ぎて窒息しちゃうかな~とか、若干おっかなびっくりでした。しかし、結果的には行ってみてとてもよかった。全てのスピーチを聞いたわけでも、すべてのピッチやベンチャーブースをチェックしたわけでもないので、あくまで主観ですが、以下、メモ程度にまとめます。

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最も印象に残ったプレゼンテーション ~コロプラ共同創業者の千葉さん~
コロプラ共同創業者の千葉さんのプレゼンがとても印象的だった。ひとつひとつの動きが全部きちんと意味を持っていて、それでいてフランクでもあり、最後まで人を惹きつけるプレゼン。高い実績を持った人が、入念に準備した上で情熱をこめてプレゼンすると、すごい力を持つことを知る。やっぱりプレゼン、大事。(もちろん中身あってのことだが) ちなみに、ドローンとインバウンドが、エンジェル投資家としての注目領域だとのこと。なるほど。

 

もっとも印象に残ったベンチャー企業~株式会社deBit
ピッチイベントには参加してなかったが、社長にお話をお聞きしたところとても面白かった。当然詳しくはかけないので割愛ですが、チームが凄くて、情熱があって、ビジネスモデルがとても面白い。日本の起業家もどんどん進化してるんだな~という印象。

■アジアの熱

ピッチイベントでは、中国人、台湾人、その他アジア地域の起業家のプレゼンがどれも、とても情熱的でした。どの国の起業家も、もちろんみな情熱的でしたが、特にアジアの起業家の熱量というか、大陸人の気迫を感じた。

■投資家の視点はやはり万国共通

ピッチイベントでは、有名な海外VCのキャピタリストやエンジェルが審査員として参加して、起業家のプレゼンに対してコメントしていました。その内容が、日本の投資家とすごく違う、という印象はあまり感じなかった。

私は、どちらかというと、日本の投資家はちょっと投資したら、すぐ売上とか、マネタイズとか、早くIPOしろ、とかを要求しすぎて、ベンチャーが小さくまとまってしまう一方で、海外のVCはそうではなく、もっとどっしり構えて、1年かけてじっくりサービスつくり込め、とかいうのかと思っていました。

でもやはり技術者あがりの起業家で、マーケ戦略やマネタイズが見えにくい話には、「どうやって売上立てるんだ!?それはどのくらいコストがかかるんだ?どのくらい利益がでるんだ?いつまでそれはかかるんだ?」と結構容赦なく突っ込む。それはやはり投資家としては当然なんだな、と改めて当たり前のことを認識。(それがいやなら自己資金と借入金で自前でやろう、という話ですね。)

ただ、特に2日目で予選を勝ち抜いたチームを見ると、やはり目指すところのスケール感は違うな、という印象。最初から、目指すところの規模はより大きく、というのが大前提に思えた。ベンチャーは、ニッチで小さいマーケットを狙う存在、という前提は、起業家、投資家双方の念頭にないように感じる。

ちなみに、審査員にガンガン突っ込まれて、それに対して起業家側はが明確な答えを持ってない場合でも、「That is good questionとか、「Oh !nice point! 」とか、あくまで強気な起業家の反応も、(たぶん)日本と違っていて面白い。お互いあくまで対等、という前提なんですよね。日本だと、投資家の方に対して、「それはなかなかいい質問だね!」なんて、生意気な感じ満点ですよねw 

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学生中心の運営

運営はほぼ学生のみ(約400人の世界中からの学生ボランティア!!)という話を聞いて結構愕然とした。

今回のSlush Asiaはほぼすべて学生のみで運営されているとのこと。しかも世界中の。自分が、ジュークハタチのときのことを考えると愕然。スポンサー集めも含め、学生主体の運営でこれだけのイベントを仕切り、そこにグローバル企業のトップクラスのスピーカーもじゃんじゃん参加して一緒に盛り上げていく熱量はなかなかすごいものでした。特に、日本人の学生さんでも、英語についてはネイティブスマホ世代の対応力はおじさん世代とは比べ物にならない感じ。ネイティブスマホ世代は同時にネイティブ英語世代か・・・

 

■英語

このイベントは公用語が英語で、キーノートプレゼンもベンチャーピッチも、ブースの説明も、基本全部英語。スピーカーのほとんどはネイティブ。全力で傾聴したので、言っていることは大体分かったつもりでしたが、やはり腹落ち感はいまいち。これについてはコツコツ続けるしかないですね。

株式時価総額とは

作成日:2016年02月07日(日)

若手起業家の方と資本政策や調達戦略の話をするとき、(特に20代の方や学生等の若手)既に何度も話をしているにも関わらず、なぜか微妙に話が食い違うというか、会話がかみ合わないことがあります。結構丁寧に説明してるつもりなのに、ちゃんと伝わってないことが判ると、自分の「伝える力」のなさに少々がっくりくることもあります。

 

が、しーかし、最近やっと気づきました!彼我の間でどこがずれてるのかを!!

ざわわーーーと霧が晴れてくるようなこの爽快感!自分がいつもやってる仕事の延長で、当たり前に思ってしまってることが相手にとって当たり前ではないのだということを改めて反省します。

 

話がかみ合わない場合、彼ら、彼女らは ほぼ100%

 

「株式時価総額」=「一株当たり株価」×「発行済株式総数」 

 

という式で株式時価総額(会社の価値)を捉えています。しかし、これ、誤解を恐れずに言い切ればファイナンス理論的にはほぼ「間違い」です。(あえて厳密には市場株価法、という評価手法としては例外的な手法)

 

確かに、上場企業の株式は、市場で流通しており日々一株当たり株式の価格が取引価格として決定されるため、株式時価総額=一株当たり株価×発行済株式総数と理解しがちです。しかし、株式取引をする人ならだれでも分かるように、一株当たり株価だけみても、その会社の株価が高いか安いかは分からないですよね。

 

例えば、

 

富士重工の株価:4,220円

日産自動車の株価:1,073円

(2016年2月5日終値)

 

では、富士重工という会社は、日産自動車よりも価値が4倍以上もあるのでしょうか。もちろん違います。

 

富士重工の時価総額は約3.3兆円

日産自動車の時価総額は約4.9兆円

 

富士重工よりも日産の方が会社全体の価値(株主価値又は株式時価総額)は、1兆円以上大きいのです。発行済株式総数というのは、各社の財務戦略や過去の資本政策の経緯で当然各社それぞれであって、会社全体の価値には本質的には何にも関係ありません。(元スバリストとしては、富士重工の時価総額は必ずいつか日産を超えると信じとりますが)

 

では、どう考えるべきでしょうか。

 

教科書的正解バージョン:株式時価総額=株主価値=事業価値ー債権者価値ー少数持分価値

でも、これってわかりにくい。。。ベンチャー経営者はそんなこといちいちちゃんと勉強する暇はない。

 

それならとりあえずこう考えるのが正解です。

 

株式時価総額=株主価値=当期純利益×PER(株価収益率)

株価収益率は、会社の株主価値が当期純利益の何倍あるかを示す指標で、業界や収益構造により市場で観測される平均的な値です。例えば、東証全体の株価収益率は、現在15倍程度です。
http://www.nikkei.com/markets/kabu/japanidx.aspx

そう、つまり、株式時価総額とは、会社の基本的な実力(例えば当期純利益)と将来性(例えば株価収益率)を元に評価された結果であって、一株当たり株価は、その株式時価総額を発行済株式総数で割った結果にすぎません。

算数的に言い換えるなら、

 

株式時価総額は、一株当たり株価に対して独立変数であり、一株当たり株価は、株式時価総額の従属変数に過ぎない、ということになります。

 

では、これを踏まえて次のようなケース(応用編)1

 

何らかの評価手法(例えばPER倍率法)により時価総額が10億円と評価された会社があるとします。

この会社の発行済普通株式は1万株で、経営株主とエンジェル投資家が保有しています。エンジェルは、出資時点で一株10万円で引き受けたわけです。

ところが、この会社が従業員向けの新株予約権を3,000株発行しようとしたところ、エンジェルから待ったがかかりました。「なぜ?意味わかんない。」と聞いたところ、「ダイリューション(希薄化)するじゃないか」と言います。は?なにそれ? と経営株主は困惑します。

 

しかし、10億円という株式価値が一株株価とは関係がないことを考えれば、将来新株予約権が権利行使されて普通株式が増えることが確実視されるなら、エンジェルの立場で言えば、10億円÷13,000株(普通株1万株、オプション3,000株)=約76,900円とも考えられるわけです。

つまり、エンジェルは、一株につき、23,000円も割高に株式を引き受けてしまったことになりかねないわけです。時価総額10億円というのは、少なくともその会社の実力として、株式が増えようが新株予約権が増えようが、変わりはないわけで、株式数が増える分自分の持分の価値が減ることになります。これがダイリューションです。

なんだ、簡単ジャン。そう、簡単なんです。でも、特に技術LOVE、ファイナンスなんてく●な、起業家のみなさんは、本職でこんなことばかり考えているわけではないので、たまにこういう話を振られるとやっぱり混乱することがままあるのだ、ということに最近私は気づいたのです!

では、応用編で次のケース2

 

この会社は、次のラウンドで、金融系ベンチャーキャピタルからの出資2億円の受け入れを検討しています。すると、ベンチャーキャピタルから、次の増資は「A種優先株式でやりたい」と言われました。また、なんのこっちゃ、となります。

ベンチャーファイナンスで用いられる一般的なA種優先株式は、特に残余財産分配権において普通株式に優先して財産を受ける権利があります。これにより、シードラウンドで1億円をVCシェア10%で調達(つまり時価総額10億円)で調達した投資家が、例えば5億円で会社を売却しようとした場合、投資額の1億円を優先して回収することが可能になります。

 

経営株主は、極めて低い株価で会社に設立出資していることがほとんどなので、5億円で売却しても十分なキャピタルゲインが出ますが、VCは5億円の10%(5千万円)しかもらえないので、5千万円も損することになります。この投資家と経営株主のコンフリクトを克服するための仕組みがA種優先株式であり、昨今のVC投資は7割位A種になってきているようです。

では、仮にVCが会社の時価総額を15億円と見積もり、A種優先株式4,000株を引き受けて増資に応じたい、と申し出てきました。この場合、VCが引き受ける一株当たり価値はいくらでしょうか。(新株予約権3,000株は、エンジェルの反対で中止したとして、考慮の対象外です)

 

一株当たり株価:時価総額15億円/14,000株(普通株1万株+A種4,000株)=107,142円

 

で正解でしょうか。ブブーーー。残念、これも理論的には間違いです。

 

ベンチャーキャピタルに割り当てられるA種優先株は、通常一株当たり1議決権が確保された上で、さらに優先分配や残余財産分配(ひどい契約だと投資額の3倍というようなものもあります)権が付与されます。従って、これは普通株式よりも権利関係が強く、理論的には普通株式より価値が高い株式と考えられるわけです。

 

しかし、普通株式とA種優先株式の価値の差額を理論的・客観的に価値に反映させること(例えばA種株式は、普通株式の5倍の価値があるなど)はなかなかに困難です。またブラックショールズモデル等を用いて算定したとしても、恣意性も入りがちであるため、実務ではほとんどこの差額が認識されることはないと思われます。(税制適格の絡みで鑑定評価を取得する必要がでてくる場合はあります)なので、上記の算定結果も、理論的には間違ってますが、実務上は広く受け入れられていると思われます。

 

しかし、経営株主は、A種優先株式による出資を受け入れた時点で、普通株式より強い権利を付与した株式を引き受けてもらっており、その対価として資金を調達しているのだ、ということは念頭に置いておくべきだと思われますし、また、A種株式にあまりに強い権利内容が付与されていないかどうかについても、信頼できる弁護士に慎重に確認すべきといえるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局起業って何歳でするの?

作成日:2015年05月27日(水)

So What? 2015第2弾

意味合いを深く考えるのは一旦置いて、面白そうな数値があったらとりあえずいじってみようという趣旨でやっております。今日の数字は「42.1歳」です。

 

起業というと、若くして大成功した天才の名前がどうしても多く浮かびます。が、成功と年齢の関係といった難しい話はさておき、単純な事実としては、国内での起業の平均年齢は42.1歳のようです。

 

この水準は1990年以降ほとんど変わっていません。20年間で2歳~3歳ほど上昇してますが、日本人の平均年齢自体も上昇していることを考えると、人生における起業の時期、というのは、実質ほぼ横ばいと考えてよさそうです。

 

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さらに、次のデータを見ると、起業する人の7割は30代か40代と推察されます。これに対して、20代の起業家は、8%程度しかいません。若年層は人口が少ないのも事実ですが、それでも生産年齢人口の2割は20代ですから、20代の起業はやはり少ないといえそうです。

 

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もちろん、30代、40代で起業する人が多いからといって、成功する確率が高いのかどうかは分かりません。しかし、少なくとも、「40代になってしまったらもう起業なんて無理」ということはなさそうです。起業する人の3割は40代なのですから。

私自身36歳の時に独立しましたが、そのときは「ああもういいおっさんなのに大丈夫かな?」という心配でしたが、おっさんだからできるMiddle Aged Start の良さもあると信じております。

 

 

優れたチームは「士農工商」

作成日:2015年05月28日(木)

今からもう10年以上前。M&Aアドバイリー会社の門をくぐらせて頂いてまだ間もないころ、よく上司に夜中までこってり絞られました。その後決まって、フォロー(慰め?詰めのおかわり?)と称して居酒屋に連れていってくれた上司がいました。

 

その時の彼が言っていた「優れたチームの条件」という話が、非常にしっくりきていて、いまだに忘れられないのでご紹介します。

 

彼曰く、優れたチームにはすべからく、「士農工商」がそろっている、のだそうです。

 

士・・・ビジョンと理念を掲げ、高い志(こころざし)でチームを引っ張る人。

農・・・組織に生じる様々な問題を、こつこつと根気よくこなして解決する、縁の下の力持ちな人。

工・・・技術屋。テクノクラート。論理に優れモノづくり(形あるものに限りませんが)に長けた人。

商・・・とにかく人たらしで、商売がうまい人。ものが売れる人。

彼曰く、どれが欠けても決して良いチームにはならない、と。

 

私は一時期これに「政」を加えて、「士農工商政」といっていました。
組織には、いい意味でも悪い意味でも、どうしても政治があるので、政治力を正しい方向に活用して組織を存続できる人は特に大組織には必要だな~という思いがありました。

 

また、コンサルタントの習性として、なにかをまとめるときは、3つか5つ、とこだわっていたので、4つ、というのがなんとなく気持ち悪かったのも、「政」を加えた理由です。

 

しかし最近では、やっぱりできれば政治力ではなく、士農工商の4力でチームが発展していったら素晴らしいな、と思い直してます。

「志」が、リーダ-(社長、役員)の役目だとしたら、「農」は、経理や総務といった役回りかも知れませんし、「工」は商品開発、サービス開発などでしょうか。そして「商」は、いうまでもなくマーケや営業です。

 

が、なんとなくそういう既存の組織図に安易に紐付てしまうと、この高尚な概念を矮小化してしまう気がして、あくまで「士農工商」という括りで考えたいという思いが強くあります。

 

ちなみに、士農工商という概念自体は、古代中国にさかのぼって、漢書には既に「士農工商、四民に業あり」とあるそうです。(Wikiのぱくりです)。私は中学生のころ、士農工商は江戸時代の身分制度とならいましたが、近年の研究ではこれは間違いで、士農工商は身分制度を表すものではなかったそうです(Wkiのぱくりです×2)

必ずしも4人いないチームでも、士と工を兼ね備えたタイプの人や、こつこつタイプ(農)の商人など、チームのメンバーの個性としてこの4業がカバーできることもあります。改めて、この士農工商という軸はチームを考える上で結構ヒントになる気がします。

 

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「感じる力が9割」という話

作成日:2014年10月31日(金)

 

 

本屋があったら、とりあえず入ってうろうろする習性があります。その時、その時の旬なテーマや時代の雰囲気が、平積みされた新刊コーナーなどを見るとすごくよくわかります。アマゾンで買えば済む本でも、できれば本屋で買いたい派です。

 

 

そういう感じで本屋の中をザッピングしてると、ビジネス啓蒙書のジャンルでここ数年ずっと見かけるテーマの本があります。「伝える力が大事」というテーマの本です。

 

有名な本では「伝え方が9割」(佐々木圭一氏著)という本があります。いい本です。このほかにも、この派生として、ビジネスマンにとって「伝える力」がいかに重要か、ということをこれでもかと訴えてくれる書籍が本屋には山積みです。

 

 

「伝わる企画書の作り方」

「伝わるプレゼンテーション」

「伝わらなければ価値がない」

 

 

私は今M&Aの仕事を中心にしていますが、IBMコンサル時代はこの「伝える力」を強化するということの重要性を非常に強くたたき込まれまし、若手には結構シビアに叩き込みました。なので、これらの著書の意図については基本的に、100%賛成です。

 

ところが、これだけ「伝える力が大事」的な、コンサル的主張が幅を利かせてくると、元々天邪鬼な私としては「ちょっと待てよ」と言いたくなってしまいます。きっかけは、最近若い起業家の方や学生のアルバイトさんなどと話をする機会が増えて、彼らのとのやり取りから考えさせられる部分があったことです。

 

 

伝える力、という意味では彼らの能力は「ほぼゼロ」です。本人たちは一生懸命いろいろ言ったり、きらびやかな(そして目が痛くなるほどカラフルな)チャートをたくさん見せてくれますが、根ほり葉ほり聞かないと、なにをいいたいのかよくわからない、という場合がほとんどです。

 

 

では、伝わらないから意味がない、だから彼らに能力がない、ビジネスセンスがない、と断じてしまってよいのか。もちろんそうではないですよね。じっくり話をして、ああでもないこうでもない、こういうこと?ああいう例あるよね?とかいいながら煮詰めていくと、彼/彼女が一生懸命考えていることの核の部分がなんとなくわかってきます。

 

 

ああ、こういうことね、と既存の概念で括れることもあれば、「むむ!」と思わずこちらもドキッとするようなことを言ってくる人もいます。そういう人と出会うと、「伝える力が9割」的な発想にあまりにも凝り固まりすぎてしまうと、逆にある種の思考停止を生むのではないか、という気もします。

 

 

ベンチャーキャピタリストなどはその最たる例かも知れません。なんか、作ってくる資料も言ってくることもめちゃくちゃ粗いだけど、こいつがやろうとしていることはでかく化けるかもだぞ!しかもお金のにおいがちゃんとするぞ!という、「感じる力」。それなくして、「伝わらないから」という理由で縁がなくなってしまったら、もしかすると未来の原石との出会いを逃すかも知れません。

 

 

私自身、もう10年以上前、とある外資系投資銀行の中途面接のケーススタディーで、「伝えられない奴」の代表として、しょーもないことをぐだぐだと、(しかしたぶん一生懸命)しゃべったことがあります。

 

 

その時面接官だったパートナーの方は、それを「わけわからん」と一刀両断することなく、「それってこういうこと!?」「面白いね、それ!」と、こちらを乗せていろいろ引き出してくれました。その過程で思いもよらないほど自分の考え方も深まり、言いたいことの確信に迫れた感触がありました。(ああいうのを、コーチング、というのでしょうか)

 

 

残念ながらその時は最終で落ちてしまったのですが、面接を通じて自分を成長させてもらった、というような実感がありました。今思い返してみると、あのパートナーの方は、若造の私の言葉からなにかを「感じ取ろう」と真摯に耳を傾けてくれたのだと思います。そこには、「伝わらないからダメ」というような姿勢はなかったように思います。

 

 

普段、「伝わらないなら×」という考え方でしか仕事をしていないなー、と強い自戒を込めて、「感じる力」の大切さについても意識していきたいと感じます。

 

 

M&Aイグジットは日本のVC投資に根付くか

作成日:2015年05月25日(月)

■ベンチャーキャピタルの投資回収(Exit)は、いうまでもなくIPOが最も望ましいストーリーです。一方でベンチャー投資はハイリスクハイリターンのオルタナティブ投資であり、VC投資先がすべてIPOに至るわけではないことも当然です。

 

下記のグラフを見ると、例えば2013年度ではIPO回収件数は117件(※1社に複数のVCが投資している場合があるため、2013年度のIPO総数58件とは一致しない)です。これはVCの回収件数728件の16%に相当します。他の年度でも、2010年度を除き10%を超える比率で推移しています。

 

これを、多いとみるか、少ないとみるかは立場によると思いますが、単純に投資件数の1割以上がIPOでのEXITを実現していると捉えれば、ハイリスクハイリターンと言われる割には悪い数値ではないのかも知れません。


 

Exit Graph1

 


 

 

 

 

■一方、次のグラフを見るとそれ以上に興味深いことがあります。VC投資の投資回収方法として、2009年度から2012年では、「経営者による持分の買戻し」が最も多かったということです。


 

Exit Graph2


経営陣による買戻しが多かった最大の原因は、この時期にIPO環境が悪化ことだと思われます。IPOや事業会社への売却が困難な環境下で、VCが経営陣への買戻しを求め、経営陣もこれに応じるケースが多かったのではないかと推察されます。

このような経営陣による買戻しは、経営陣個人に大きな財務負担を強いたであろうことは容易に想像されます。恐らく多くのケースではVCの投資簿価前後での買戻しになったと思われますが、VCとのハードな交渉になったであろうことは想像に難くありません。

 

一方で、このグラフからは新しい潮流の兆しも読み取れます。2013年に注目すると、すべての回収方法の中で、2009年以降初めて「売却」が最も多くなっています。既にいろいろな専門家が指摘していることですが、ここにきていわゆるIPOに必ずしも拘泥せず、一定の規模まで事業が成長したところでM&Aにより投資を回収する事に、経営者の抵抗感がなくなってきているのではないかと思われます。


■情報ソースと情報取得範囲が異なるので一概には言えませんが、下記のデータでは、米国ではベンチャー投資の出口はもはやM&Aが多数派ではないかと推察されます。これは、投資家にとっても、経営者にとっても、ベンチャー投資⇒回収⇒再投資のエコサイクルを回すために非常に有意義で、米国のVC投資サイクルの好循環を生んでいるということは多くの専門家の方が指摘されています。

 


Exit Graph3

 

 

 


日本でも、こうしたベンチャー企業の売却Exitが、なんとなく後ろ指を指されたりすることなく積極的に行われるような市場になればとても良い循環が生まれると感じます。しかし、こうした売却Exitにより、経営陣が損した気分になったり、投資家が「IPOの方が良かったのに」と残念に感じる、といったことは避けたいところです。

そのためには、中期資本政策、投資契約、株主間契約などを、お互いがきちんと理解して納得済みでゴールに向かっていくことがとても重要だと思われます。

 

 

 

 





 

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