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仮想通貨の将来を考える~ビットコインが主軸通貨になる未来は(たぶん)来ない。しかし、Jコインが実現したら日本は激変するかもしれない~

今から1年半ほど前、フィンテックビジネス領域を俯瞰したうえで、今後この領域でどのようなフィンテックビジネスが創造され得るのか、弊社なりの仮説をまとめたコラムを書きました。

http://ignitepartners.jp/column/businessddcolumn/450-2016-02-14-10-24-09.html

このときのコラムでは、今後予想されるフィンテックの大きなトレンドとして、5つの仮説をまとめています。

 フィンテック仮説

 

この5つの仮説について、この1年半の動向を踏まえて、大幅に修正したり撤回する必要がある「想定外の出来事」は基本的にはないと考えています。一方で、特に仮想通貨に関する領域では前回のコラムの時点は想定できなかったほど、実に多様な動きが活発に起きてきています。


そこで、今回のコラム(3回シリーズを想定)では、特に5つ目の「仮想通貨技術の発達による既存通貨取引の減少と伝統的金融政策の無効化」という仮説について、最近の議論や動向も踏まえつつ少し深堀りして書いてみたいと思います。


最初に、このコラム連載における結論です。


結論1:ビットコイン、イーサリアムをはじめとする価格変動制の仮想通貨は、少なくとも主要通貨を駆逐することはない。通貨の安定性と信頼性を構成する「質の安定」と「量の安定」という2要素のうち、「量」の安定性を担保する仕組みが設計されていないからである。


結論2:みずほ銀行を中心に国内商業銀行連合が構想している対円固定レート方式のJコインは、発展可能性が高い仮想通貨である。


結論3:ブロックチェーンを活用した仮想通貨の便益を最大化するために理論的に最も合理的なのは、日本銀行がデジタル円通貨を発行することだが、早期の実現はおそらく困難。



今回のコラムでは、この3つの結論のうち、主にひとつめの結論について書いてみたいと思います。

本日現在のところ、ビットコインに対する評価は、好意的なものと懐疑的なものが入交り、確たる評価の方向性は定まっていないという印象です。このような中で、最初の結論で書いたように、ビットコインやイーサリアムなどの価格変動型暗号通貨(以降、「ビットコイン等」といいます)が、既存通貨を駆逐することはないと断定するのは、早計と感じる人も多いかもしれません。


しかし、金融論の基本的な考え方に照らせば、現在のビットコイン等の仮想通貨が、通貨に必要な安定性の要件を十分には満たしていないと言わざるを得ないと弊社は考えています。本コラムではこの論拠について説明をしてみたいと思います。


■そもそも、通貨の安定性とはなにか。

本コラムでは、そもそも、通貨が満たすべき安定性の要件とは、「1.質の安定」と「2.量の安定」であると定義します。それぞれ順番に考察します。

まず、通貨の「1.質の安定」とはなにか。

 

 

① 偽造が困難で、偽造した者に対して厳罰を科すことができる。
② すべての通貨を同一品質で供給できる。
③ 流通コストが低い。

古来、こうした通貨の質を担保するためには、巨大な力(国家権力)が必要でした。例えば、金、銀、銅といった希少金属を発掘し、鋳造し加工し、一定品質で大量生産できる技術と労働力の確保。また、通貨の偽造犯罪を徹底して罰することができる警察力。通貨の質の安定と信用の確保は、巨大な権力なしには実現し得ないものでした。最近話題になった「サピエンス全史」にもあるように、歴史において通貨は常に権力と一体だったわけです。

 

ところが、ブロックチェーン技術を用いて、ネットワーク上の分散型台帳に、実質的に書き換え不可能な形で記録される仮想通貨のデータは、これまで国家権力しかなしえなかった通貨の質の安定確保の問題を、テクノロジーで解決できる可能性があります。これが、ビットコイン等が注目される最大の理由であることは言うまでもありません。少なくともこの点においては、歴史上どの国家もなしえなかったほどの革命的なできごとであることは間違いないでしょう。


このコラムでも、ビットコイン等、ブロックチェーン技術を用いた仮想通貨が、この、通貨の質の確保を技術で解決し得る点については、実現可能性が高いと考えています。つまり、ビットコイン等の仮想通貨は、①偽造が不可能で、②品質が一定で、(電子データだから)かつ③流通コスト、管理コストが極めて低い、という3点を満たしているという前提に立ちます。これらは仮想通貨における議論の中心に位置づけられ、すでに十分な議論と検証がなされていますし、もし仮に今後技術的な問題が発生したとしても、おそらくそれは早期に改善される可能性が高いでしょう。


では、「2.量の安定」とはどういうことか。

 

では次に、仮想通貨は「通貨の流通量の安定性」を担保できるのか。という点について考察します。なぜ、流通量の管理が決定的に重要なのか。これが、このコラムの主題になりますので、少し冗長になりますが、最初にシンプルな思考実験をしてみます。


■黒曜石10個とりんご10個だけがある極めて原始的な閉鎖経済を想定する。

実際にはあり得ませんが、通貨の「量の安定」の重要性をシンプルに確認するために、黒曜石10個とりんご10個だけがある極めて原始的な閉鎖経済下の島を想定してみます。

ここで「りんご」は、実態経済の財を意味します。
そして、「黒曜石」はいうまでもなく、貨幣を意味します。
※黒曜石は、貝殻や宝石、金と並び、古代社会で貨幣として流通したといわれます。

この閉鎖経済の下で、すべての黒曜石とすべてのりんごが1回だけ交換された場合、りんごの価値は黒曜石1個と等価になります。つまり、黒曜石で測ったりんごの価値は、「1黒曜石」です。これを仮に「1k」とします。

次に、島の南の洞窟で、黒曜石が新たに10枚採掘(マイニング)されたとします。そして、同じように、すべての黒曜石がすべてのリンゴと1回だけ交換された場合は、黒曜石で測定したリンゴの価値は2kとなります。つまり、リンゴという実態経済の財に対して、黒曜石という貨幣の価値が半減し、貨幣価値が下落したことになります。貨幣価値の下落=これすなわちインフレです。このように、貨幣の流通量が増えれば、貨幣価値が下がりインフレが起きるというのが、いわゆる古典的な貨幣数量説といわれる理論です。


実際には、黒曜石が新たに発掘されても、リンゴとの交換が行われず手元に保有される場合は、インフレは起きません。従って、リンゴと黒曜石が取引される回数も、インフレに影響します。この取引回数のことを、経済学的には流通速度といいます。

 

 

こうした関係を数式で表すと、以下のような、「フィッシャーの交換方程式」と呼ばれる等式になります。

 

MV=PQ

 

M: ある期間中の任意の時点tにおける流通貨幣(通貨)の総量
V: 貨幣の流通速度(特定期間内に人々のあいだで受け渡しされる回数)
P:ある期間中の任意の時点tにおける物価水準(通常は基準年度を1としたデフレータ)
Q:取引量(特定期間内に人々のあいだで行われる取引量(quantity)の合計)



※余談ですが、このフィッシャー方程式は、いわゆる古典派経済学の理論の中核をなす要素のひとつです。古典派経済学と異なる経済学派(ケインジアン、新古典派など)との間では、特にこの貨幣流通量が生産量や付加価値(実質GDP等)の増大をもたらすか否か、(貨幣の中立性命題)について、激しい論争が繰り広げられてきました。しかし、生産量への影響はさておき、少なくとも貨幣の流通量が一定程度物価に影響を与える点においては、さまざまな経済学派の間でも、程度の違いはあってもおおよそ合意しています。従って、本コラムでも、フィッシャーの交換方程式が示す、貨幣流通量と物価の関係については、相関関係のみならず、一定の因果関係があるという前提で議論を進めます。


フィッシャーの交換方程式が示すことは、実態経済の物価水準(すなわち貨幣と財の交換比率)を安定的に保つために、通貨の流通量を管理することが極めて重要であるということです。この貨幣流通量の適切な管理こそ、近代通貨当局の最も重要なミッションの一つです。先に述べた、貨幣の質に加え、この「貨幣の流通量の安定性」が担保されて初めて、価値の測定尺度としての通貨の安定性(すなわち物価の安定性)が保たれます。


※ただし、本コラムにおける議論では、「物価」を当該貨幣以外の財全般のとの交換比率として定義しており、資産の質の違いは無視しています。具体的には、一般的な物価の指標である消費者物価指数は、いわゆる資産価格(不動産、株式等)やエネルギー財(石油とか)を含まない概念ですが、ここではもっと抽象的な財の概念として、これらすべてを含む「当該貨幣以外の財」の総合的な価格水準=「物価」ととらえています。近年の日本では、アベノミクスによる大規模金融緩和でも、物価が上がらないことが最大の課題と捉えられていますが、これは消費者物価指数(CPI)が上がらないことを意味しております。株式、不動産、または米ドルは、円に対して大幅に切りあがっているわけで、これらの資産価格の上昇まで含めて、総合的な物価水準というものを仮想定すれば、やはりアベノミクスによる金融緩和(流通量の増大)で、円は他の財に対して大幅に減価している=フィッシャー方程式の考え方は否定されていない、というのが本コラムの立場です)


ところが、少なくとも現時点ではビットコイン等の仮想通貨には、この通貨の発行量の適切な管理と、それがもたらし得る価格の安定を実現するアルゴリズムは、基本制度設計に組み込まれていないと考えられます。そもそもこの通貨流通量の安定に必要なのは、価格動向物価の安定を継続的に実現するための通貨需要量の管理主体であり、アルゴリズムで解決できる問題ではありません。


ビットコインは、取引記録の検証に参加した有志が記帳に成功した段階で、その報酬としてその検証者に対して新規発行されます。この行為がマイニング(発掘)と呼ばれ、高度な計算パワーを持つコンピューティングシステムが必要な作業とされており、現在主要なマイナー(発掘者)は電力等が安い中国などに集中しているといわれます。

マイニングの詳細については他の媒体に説明を譲りますが、本コラムで指摘したいポイントは、このアルゴリズムは、ビットコインの需要動向(価格)を考慮して発行量を決めるものではないということです。ビットコインは、一定期間ごとにビットコインの発掘量が減少していき、およそ2040年前後に発掘コストが発掘者の便益を下回ることができなくなることで、新規発行が行われなくなる(すなわち新規通貨の打ち止め)仕組みとして最初から設計されています。


このアルゴリズムは、本質的に、通貨に必要な量の安定(需要に対する安定的な供給量の確保)をミッションとするものではありません。謎のビットコインの設計者「Satoshi Nakamoto」が、どのような意図でこのビットコインのマイニングアルゴリズムを設計したか、詳細はわかりません。おそらく、常にビットコインの需要が供給を上回る(ビットコインがちょっと足りない)状況を創り出し、ビットコインが値崩れしないようにすることを意図していたのではないかと想像しています。


しかし、ビットコインが注目されると同時に大量の投機的需要が発生し、ビットコイン価格は急騰。その後、中国規制当局の動きなどもあり、直近では急落しています。ビットコインが本当に他の主要通貨を駆逐し得る存在足り得ようとするならば、このような価格の変動に対して、調整できる機能と仕組みを持たなくてはなりません。

今回のビットコインのように、通貨の価値が急変した場合、例えば円であれば日銀が市場から資金を吸収して行ってインフレを抑制したり、逆に価格が下落(通貨価値の上昇=すなわちデフレ)したら、日銀が市場に資金を供給して通貨価値を下落させるためのインフレ策をとるなど、いわゆる金融調節機能を発揮して価値の安定に努めなくてはなりません。

しかし、ビットコインを等の仮想通貨にはこうした仕組みはビルトインされていません。また、今後ビルトインされることもないでしょう。すでに述べた通り、これはアルゴリズムの問題ではなく、通貨の価値の変動に対して反対の取引を行う取引相手(通貨当局)が存在しないという、設計制度・システムの参加者の不存在の問題だからです。これが本コラムの結論のひとつとなります。


では、仮想通貨は投機対象にしかならないニッチな通貨でしかありえないのか。


では、すべての仮想通貨は、ごく一部の投機愛好家の嗜好品でしかありえないのか。ブロックチェーン技術が持つ、偽造防止、同一品質の担保、低い流通コストというメリットを享受しつつ、変動相場制の採用による価値の不安定性を克服することはできないのか。


これについては、弊社では、商業銀行によるJコインは大きな可能性と日本経済への衝撃の可能性を秘めているし、最も本質的には、日本銀行が自らデジタル円通貨を発行し、民間のIT企業と連携してブロックチェーン台帳の管理をしていくことが究極の理想(でも多分実現できないだろう)という仮説を持っています。

次回以降のコラムではこれについて書いてみたいと思います。