テクノロジーとイノベーションに関するコラム
マーケットインを定義できますか?
前回まで、弊社が考える、プロダクトアウト型マーケティングについて、3つのタイプに分けて説明してみました。今回からは、マーケティングの次の段階としての、「マーケットイン型」についても、同じく3つに分類して考えてみたいと思います。
今回はその一つ目、 「マーケティング1年生」 についてです。ネーミングがいまいちで恐縮です。これは、およそ次のようなタイプのマーケティングです。
横軸:
個客の欲求やニーズを把握して、それを経営に反映させていかなくてはいけない、という危機意識と姿勢はあり、「アンケート調査」や、「お客様の声」の収集等はめちゃめちゃ頑張ってやろうとしている、もしくはすでにやっている。
縦軸:
しかし、それをもとに、うまくターゲットセグメンテーションや、打ち手につなげることができない。
というタイプのマーケティング活動(レベル)です。つまり、担当者、マーケティング部署、そして会社組織全体が、マーケティングという活動自体に不慣れで、顧客の声をどう成果につなげていくかわからない、という状態です。
これは、1990年代くらいまでの日本企業には多く見られた現象と思われます。業種業態によっては、今でもこの手の活動が苦手な会社は多いかも知れません。マーケティングがコンサルタントの稼ぐ最高のソリューションの一つだった、ある意味コンサルタントにとっても幸せだった時代です。
このタイプの企業は、端的には次のような問題を抱えていることが想定されます。
まず、①顧客の声(ニーズ)をうまく把握できない。
次に、②把握した情報に基づき、うまく戦略を立案できない。(企画、分析力不足)
そして、③戦略を立てても、実行されない。
まず、①については、実は顧客の声を把握する、といっても、本当にやろうとすると結構難しい、ということがあり、これが課題となっている状況です。あるサービスを購入した人に、「どうして購入したのですか?」とか、「どこが気に入ったのですか?」とか、いろんな質問を100も200も並べるのですが、質問が特定領域に偏っていたり、把握するのに時間がかかりすぎたり、精度が低かったり、といった問題です。
実はこれは、例えば単純なアンケートにしても、あらかじめ、ある程度の仮説を持って質問を構成する必要があるなど、ある種のセンスが必要な領域でもあります。この領域で外部専門家としての、「マーケティングコンサルタント」が活躍する余地があるのも、この「秘伝のタレ」のような部分がかなりアートに近いためでもあります。
次の②問題は、顧客のニーズらしきものは把握できたが、どのような打ち手を打つかわからないという問題です。ターゲットはどうするのか、価格帯は?チャネルは?と、いわゆるマーケティング戦略の4Pにどう結果を反映させるべきか、企画力が不足している状況です。
最後の③は、実は一番深刻で、マーケティングが苦手な会社が必ず直面している課題です。
当たり前ですが、①や②については、そうはいっても言ってみればある程度シンプルな話です。
「マーケティング調査によれば、当社の製品・サービスを好んで使うユーザーは、XXという機能や▲▲というブランド感や〇〇という提供価値を求めている。こうした傾向は特に高所得層の専業主婦に多く、リピート率も高い。」(⇒ニーズの把握)
「従って、これからは、高所得家庭の専業主婦向けにより、特化し、XXという提供価値を前面に出した、高価格帯の新製品を出そう」(⇒打ち手の導出)
実際の経営やマーケティングがこんなに単純なわけはありませんが、論点を単純化すれば、上記①②については、こういうことになります。これは、正直がんばればできそう(レベルや網羅性は別として)です。
ではなぜ、そうすんなりと「では、そうしよう(=③)」とならないのか。
マーケティング部門には、ネガティブな言い方をすれば社内に2つの敵がいます。それは、営業と製造です。(製造業を例にしていますが、それ以外の業種でも本質は同じです)
営業担当者の言い分は例えば、「そんな絞りこみをしたら、これまでの自部門の重要顧客だった低所得層を失うことになる!」「おれの顧客はそんな高価格のものは望んでない。マーケターのやつらは現場なんぞ知らんくせに!!」よく聞く話です。
一方で、製造担当者の言い分は例えば次のような感じです。「そんなことをしたら、これまでの製造ラインが使えなくなる!」「高価格帯の製品は作業効率が悪い!。」
営業や製造の現場寄りの人は、基本的には、机上の空論を語りがちな「マーケター」が大嫌いです。マーケターなどは、彼らに言わせれば、「PCパチパチやって仕事した気になってる頭でっかちのひ弱なやつら。くそくらえ!」というわけです。
こうした組織の壁を越えて、自社のバリューチェーン全体を顧客ドリブンに変革していくのは、マーケティングの課題を超えた事業全体の再構築、ひいては企業文化の改革といった大きなテーマとなります。
しかし、1980年代以降、多くの企業がこうした課題に前向きに取り組み、マーケティング活動の中で大きな成果を上げる企業が出てきました。そうした中で、マーケティングという活動について、日本の非常に保守的な業種業態でさえも、もはやマーケティングの必要性について賛否が分かれる、という段階ではないでしょう。マーケティング不要論、などは、さすがに古き時代の昔話になりつつあります。
しかし、一方で、例えばiPhoneを開発したApple(ジョブズ)や、かつてのソニーなど、本当に優れた製品や社会を驚かすような成果はマーケティングからは生まれない、という批判も常にあります。これについては、別の回で改めて考えてみたいと思います。
今回は、マーケットイン型のマーケティングの第一段階としての「マーケティング1年生」について考察しました。次回は、このマーケットインタイプの次の段階について考えてみたいと思います。